マニラ瑞穂記 公演情報 文学座「マニラ瑞穂記」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    高崎領事役の浅野雅博はじめ、いい俳優がそろっている。明治末期のマニラという特殊な場面を、そこに確かに生きた人の存在感と歴史の厚みを持って現出させた。昨年、新国立劇場演劇研修所の修了公演で見て、それはそれでよかったが、文学座はやはり格が違う(いまさらな感想を失礼!)。

    それぞれの人物がしっかりしていた。特に女たちは同じような境遇でいて、全然違って5人5様。もん(鈴木結里)は無邪気な恋心が可愛く切ない。はま(鬼頭典子)は姉御肌。いち(下地沙知)は酒におぼれて、自暴自棄から平穏を引っ掻き回す厄介者。タキ(鹿野真央)は男にもてるのに、男に持たれず凛としている。くに(増岡裕子)はおせっかいもの。最初の顔中すすだらけの海賊のようなぼろ姿から、着替えた後のきれいどころへの変身が鮮やかだった。

    「南洋の海をコップでくむような、キリもないことを人間は繰り返している。」
    「あの人は若い。理想がある…わたしもむかしはそうだった」
    「日本人は夢が好きだ。理想が好きだ。しかしわれわれ日本人には、理想とか主義とかを、本気で最後までやり通す能力があるんだろうか」「日本人は夢を持つのが好きだ、その夢に熱狂して酔うのが好きだ」
    などなど、いいセリフがちりばめられている。

    ネタバレBOX

    1幕で話だけで消えた、日本の自作自演の領事館襲撃計画が、2幕で本当に実行される。そのほか、1幕、2幕ともフィリピン独立を応援する志士たちの話で始まるとか、戯曲の構造がよくできている。伏線、照応がよく計算されている。

    照応構造の最たるものが、「女を金で売買する秋山も、国を金で買ったアメリカも同じじゃないか」という高崎領事のことば。アメリカ許さんと意気盛んだった秋山(神野崇)が、ここから自らを省みるようにだんだん変わっていく。

    古賀中尉(駒井健介)との決闘という生死をめぐる一つの頂点を経て、女たちと立場が逆転し、女にののしられ足蹴にされるどん底に落ち込む。ここが最大の見どころだが、おんなたちのしたたかな生命力と、それと一体の依存性、恨みと絶望=開き直りが噴出する。黒澤明「隠し砦の三悪人」の火祭りの場面のような、一種ハレの、日ごろの鬱屈の解放された瞬間だった。

    最後は襲撃される前に、領事自らが火をつけて避難。口のきけない元女郎の老婆シズ(寺田路恵)が一人、焔の前に立ち尽くす、象徴的な幕切れだった。

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    2022/09/17 11:05

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