笑顔の砦 公演情報 庭劇団ペニノ「笑顔の砦」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い、お薦め。
    舞台は、京都から3時間余りの漁港町にある平屋アパートの隣り合う部屋。物語は何か事件が起きるわけでもなく淡々と日常の光景が描かれる。いや 物語を紡ぐというよりは生活の断面、もっと言えばその瞬間の出来事を切り取ったもの。だからこそ、そこに現実が立ち上がってくる。そこには家族を中心に、少子化、高齢化・介護といった現在の日本が抱える問題が潜んでいる。もちろん説明にある地元の漁師たちが寝食を共にし住み込んでいる、それも家族の一形態として捉えている。

    隣り合う部屋を見比べながら、敢えて違う人間関係を見せることで、問題の広がりや複雑さを浮かび上がらせる。観せ方は、何となく部屋を覗いているような感覚、だから過度な感情移入はしないのではないか。そこは計算ずくかもしれない。

    地元の漁師たちの動的な賑わい、一方 認知症患者を持つ家族の静的な佇まいが対照的に描かれるが、それを体現する役者の演技が実に自然体で良い。ラスト、季節の移ろいが人の心情に重なるという巧い演出、見事だ。
    (上演時間2時間 途中休憩なし) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は、隣り合う部屋であるから同じ構造(対称)ー台所・換気扇、トイレの位置や押入れ等、細密に作り込んでいる。違うのは生活感の有無、例えば漁師たちが暮らしている下手の部屋は薄汚れた壁や換気扇、一方 上手は冒頭 誰も住んでいないから きれいなまま。庭へ出るガラス戸(木枠だけ)を開けると縁側、下手には外水栓や漁の道具、そして一本の木。上演前にはカモメの鳴き声。

    物語は、漁師3人が飲み食い、そして笑いあう賑やかさの中に穏やかな暮らしが観て取れる。暗転し舞台幕に主人公・蘆田剛史<53歳>(緒方晋サン)のプロフィールが映される。そこへ1か月間だけのバイト・山下大吾<22歳>がやってくる。そして隣の部屋に認知症の女性・藤田瀧子<86歳>が住み、その介護をする息子・勉<55歳>、孫娘・さくら<21歳>が出入りするようになる。一見 対照的な動・静の生活感を観せるが、そこに潜む人間の寂しさや弱さが浮き上がる。

    剛史の部屋に 弟分というか弟子のような2人、沖本亮太<42歳>、佐藤健二<35歳>が出入りする。長年の付き合いのようだ。年齢層をばらけ各年代が抱える問題を考えさせる。そして家族、例えば勉や亮太は一人っ子で、親の面倒を見るといった事情を描く。勉は町役場勤務の傍ら母親が暮らし始めた部屋に通い、娘にも手伝わせている。亮太は、母親が余命半年で 父親だけに介護を任せられないと 北海道に帰郷してしまう。家族同然の仲間が去り、縁側に座って剛史が叫ぶ「一人って寂しいに決まっている!」はジーンと心に響く。さくら も一人っ子でいずれ勉の面倒を見ることになると…。

    物語の季節感は藤田家のカレンダーが11月。そして両方の部屋にストーブ、漁師の部屋には炬燵、TVが置かれている。部屋の設備は同じでも、家具等は異なり、藤田家にはベットやポータブルトイレが置かれている。そして何度か 食事の場面が描かれるが、そこに 生きる(暮らす)といった人間の営みを表現する。料理に湯気が立ち、洗濯物を干したたむといった日常のリアル光景が描かれる。日常の断面を切り取り、それを結び繋げることで展開していく物語。

    季節は春先になったようで、一本ある木に梅か桜(区別出来ない)が咲いている。バイトだった大吾が第二金剛丸と書かれたジャンパーを着る。一方、藤田家は引っ越し空室になっている。母親の認知症が進み施設へ入所させたか、それとも…。隣り合う部屋で描かれた光景は、日本のどこかで見かける家族。とても滋味溢れる公演、観応え十分であった。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/09/15 17:26

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