実演鑑賞
満足度★★★
デュレンマットの戯曲は政治的寓話劇である。硬派で政治的なドイツ演劇の系譜に位置すると言っていいだろう。本作で面白かったのは、ボス(外山誠二)の「インテリは自分も現実を生きているくせに、理想の国から批判する。罪を感じているのに、自分は無罪だと主張する」という、手厳しいインテリ批判。しかしそれは作者自身の姿でもある。絶世の美女アン(月船さらら)が、なぜ何の魅力も感じられないドク(小須田康人)を好きになるのか、それが説得力がないのが残念。
寓意や作者の世界観が前面に出て、すべてはそうあるように展開し、驚きや謎がない。ドラマより思想優先の作劇は、やたら独白(観客に直接語る独白。傍白ではない)が多いことにも表れている。そういえば、冒頭からドクの長い独白だった。独白、独白、独白。
主要登場人物の3人の名がドク、ボス、コップと役割から来たニックネームでしかないところにも、この作品の抽象的性格が表れている。「大統領は殺しても遺体は残す、「国葬」の楽しみを国民から奪わないため」というセリフはあるが、それが安倍元首相の国葬とリンクするから現代的というわけではないだろう。