大豆生田家の庭に咲く花は薔薇かスミレか! 公演情報 ライオン・パーマ「大豆生田家の庭に咲く花は薔薇かスミレか!」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     今年観た作品中、ベスト。華5つ星! タイゼツベシミル!! いつも通り、間を脱臼させる擽りの見事さに、泥んこと贅沢やセレブの暮らしを対比させつつ、ある大劇作家の某作品のワンシーンをさりげなく紛れ込ませることによって作品の厚みを数百年の時の厚みに重ねる上手さ。脚本の素晴らしさ、役者陣の上手さ、演出の妙、舞台美術の様々な工夫と照明、音響の効果的な用い方、何れも素晴らしい。(追記9.3)

    ネタバレBOX

     板上はホリゾントを底辺の無い凸型の建具で区切り、その凸部手前センターに踊り場のある階段が迫り出すような形で設えてある。踊り場奥は中央に絵画の描かれた開き戸になっている造作(開き戸を開けると真ん中の空洞を囲うように木の枝が見える)この絵画の上手にドア。階段左右にはカーテン状に開く上品な幕の掛かった個室が在る。出捌けは上手・下手それぞれの袖と階段上のドアの3カ所。更に面白い仕掛けが、階段上手の階段と個室の間に設けられた壁に仕込んであり、この壁の一部を開けるとラブホの受付である。
     さて、大豆生田家の縁起と参ろう。一家の者は皆、登場時アーガイルと称される文様の衣服を身に纏っているが、是はこの家の隆成を齎したご先祖・ひい爺さんの父(高祖父)の逸話に端を発する。往時、大豆生田家は古い因習の残る地方に暮らしていた。その折、高祖父は、あらぬ罪を着せられた。彼は無実を主張したが、因習の強い地方の慣習では有力者の主張が通り易く無実を主張する高祖父は捉えられ拷問に掛けられた。然し彼は昂然と大豆生田の家名に掛けて無実を主張し拷問に耐え、放免された。この一件を以て大豆生田家は平民でありはしたものの、一目も二目も置かれる存在となったのである。そしてその折、拷問によって高祖父の肌に刻まれた痛々しい傷跡が、アーガイルの文様と似ていた為、一家の者は家の特別の行事の際にはこの文様の衣類を着るのである。無論、現在では大豆生田家も世界各地に支社を持つ企業のオーナーだからセレブ。だがこの家の隆成を面白く思わない一族が居た。神々隠家である。神々隠の家名から想像がつくように特別な家柄であることを誇りにしている。
     物語は、大豆生田家現当主・幸之助の妻・玲子の誕生日当日と翌日を中心に展開する。因みに玲子と神々隠家の現当主夫人・麗子は友人であり、麗子の誕生日は玲子の誕生日翌日である。麗子は玲子を見下そうと何かに付けて対抗意識を燃やすが、今朝、玲子の誕生日祝いに麗子の態々持参した物は、菫の花束であった。無論、麗子は自分を薔薇だと思っている。言う迄もあるまいが、神々隠家も名門。名門私立学校や一流ホテル経営等の他多くの企業のオーナーとして名の通ったセレブである。
     ところで、両家共に今は一流のセレブ。劇中、家訓という形で明示される訳では無いが、一流たる者が当然持つべき資質を磨くことに掛けては両家共に家族内でも厳しいモノがある。それは家族内での競争原理が如実に働いていることである。大豆生田家のそれは、日常総てに関わる的確な想像力と対処能力であり、神々隠家のそれは旧家の歴史と体面に則り時代の荒波の中で最低限、先祖から受け継いだ社会的地位と名誉を維持することである。大豆生田家の厳しさは、先ずその自由な家風である。言っておくが真の自由は、ノンベンダラリと自堕落に状況に流されることでも無ければ、ズブズブと親の豊かさの齎した恩恵に嵌り込んで惰性でぬくぬくと過ごすことでも無い。何ら支えを持たぬまま虚空に独り裸で宙吊りになることだ。このような状況こそ、我ら、知ある存在の原点である。誤魔化さない人間なら誰しもがこのような過程を十三・四歳で経て大人への階段を登ってきた。そしてそのような人間なら皆、大豆生田家のアーガイルが意味する所を知る。現当主・幸之助の度量の広さと優しさ、的確な洞察や他者への鷹揚な態度もこのような自由を核として培われたものであろう。妻・玲子の天然は言ってみれば率直さ、これは才能の原点である。大豆生田家の特色である自由と多様性こそ、独創性の揺り籠であり、地球上に生命が誕生して以来進化することができた最大要因の一つである。これに対して神々隠家は、旧家としての歴史と面子に縛られ不自由に縛られているのでやることは因循姑息、このままでは未来が無い。然し、子供は一男一女、長男・麗之介は、親の力に頼らず、自力で新たなジャンルにチャレンジしようと事業を立ち上げた。(結果的に大反対していた麗子も夫・忠彦と共に麗之介の店を訪れる)
     上記に、外の知らない世界を訪ねてみたい玲子に執事・中山がエスコート役でついてあちこち訪れるのだが、この外出中に件のラブホが絡んでくる。(どうなるかは観てのお楽しみだ)そして無論、サブストーリーはこれのみではない。両家の核家族内部での競争が生み出す展開も様々に絡み合い縺れ合って、一瞬、勝負あったかに見えた麗子の落胆を覆すことになるかも知れないラストに繋がっている。続編ができれば是非、ぜひ拝見したい!

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    2022/09/02 02:47

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  • 皆さま
     ハンダラです、遅くなりましたが、追記しておきました。
    ご笑覧下さい。

    2022/09/03 14:58

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