実演鑑賞
満足度★★★
『ガマ』
米軍戦史に「ありったけの地獄を一箇所にまとめた戦争」と記された沖縄戦。住民の4人に一人が死亡、おおよそ3ヶ月で県民12万人以上が亡くなった。
岡本喜八の名作『激動の昭和史 沖縄決戦』は映画館だけでも10回近く観ている。新藤兼人の脚本が淡々と事実を積み重ね地獄絵図を記す。しかもこの映画が公開された1971年、沖縄戦を体験した住民が岡本喜八に食って掛かったそうだ。「あの地獄をこんな生ぬるい映画にしやがって!」
余談だがスピルバーグは岡本喜八の大ファンで『シンドラーのリスト』にはこの映画のオマージュがある。(『プライベート・ライアン』にも『血と砂』のシーンがあったような気がするがもう忘れてしまった)。スピルバーグは来日する度に岡本家を訪ねて来たそうだ。昔、奥さんから直接聞いた。「皆、黒澤明監督の事しか記事にしないけど本当よ。」
今作はその黒澤明調に始まる。ガマ(防空壕として使われていた自然洞窟)に入ってくる3人。ひめゆり学徒隊の看護要員(清水緑さん)、鉄血勤皇隊の引率教師(西尾友樹氏)が担ぐのは崖から落ちて意識を失っている負傷した兵士(岡本篤氏)。ランプを灯すとうっすらと中の様子が見えてくる。この照明が絶品で、綿密に繊細に計算尽くされた技術。照明・松本大介氏の見事な手腕。『羅生門』のようなおどろおどろしさから物語は始まる。
この劇団は役者一人ひとりの厚みが売り。黒澤組や喜八組を観ているような感覚で、今回は誰が何の役なのか、登場すると三船敏郎や仲代達矢ばりにゾクゾクする。
この面子を前に堂々と主演を張った清水緑さんは末恐ろしい。
ドキュメンタリー映画『沖縄スパイ戦史』(三上智恵、大矢英代共同監督)も是非観て頂きたい。護郷隊も出てくる。