実演鑑賞
満足度★★★★★
前半は正攻法のリアリズムに徹した、わらいの絶えない人情喜劇だった。新宿の街角での、袖振り合うも他生の縁ともいえる、人々の人生のちょっとした交差(川端康成や、万引きした男=どちらも廣川三徳、傷痍軍人のアコーディオン引き=山内圭哉)。
セット変って、落ち目の喜劇劇団三角座の舞台へ。結核療養から帰った看板役者(大倉孝二)の、光の当たらない憤懣からのやさぐれぶり。緒川たまきのコメディエンヌぶりと、戦争未亡人(松雪泰子)に片思いの新人裏方の兄(瀬戸康史)のかけあい。ヒロポン中毒から脱出したコント作家志望の俳優の弟(千葉雄大)と恋人(伊藤沙里)。周囲も芸達者ぞろいで面白い。「どう台本おもしろい?」ときかれて、上の空の感じで「おう」と答える間合いだけで笑わせる(これは山内圭哉)。正統派リアリズムはケラにしては珍しいが、これはこれで見事で、前半だけでなんと2時間を飽きさせない。
20分休憩入れて3時間45分。特別な興行でもないのに、これだけ長い芝居は珍しい。しかし、最後まで充実した時間を過ごせる、たっぷりとした豊かな芝居だった。