実演鑑賞
満足度★★★★
Mrs.fictionsはあまりなじみのない小劇団だが、春にアゴラでみた「花柄八景」は今年の小劇場ベストテンにはきっと入るに違いない良い出来で、今回の「伯爵のおるすばん」も、劇団の看板演目で3演目と言うので期待して見に行った。劇場もアゴラからは格(客席数)上げで吉祥寺シアターだ。
Mrs.fictionsという小洒落れたネーミングの劇団も、作・演出の中島康太もこの二作以外は知らないし、今までのほとんど活躍の跡を知らない。たとえば、春に初めて見たMotextraの須貝英は少し調べたら、経歴が分かったが、この作家は今の段階では、ネットを検索した程度では出身・経歴が全然わからない。中島を軸に俳優数人の劇団らしく、今までも、多くの出演者はエイベックスの劇団4ドル50セントから借りている。今回は、さらに数人の客演があって出演者が12名。小屋に合わせてスケールアップしている。2時間20分と長い。
作・演出中島康太は、本も舞台面も細かく丁寧で、今の若者劇団にありがちの乱暴なところや、品のないところがない。大人のタッチなのだ。二作に共通しているのは、各エピソードは格段に面白いのに、劇の骨組みが弱いことだ。ちょっと素人っぽい匂いもする。
今回のテーマは、「不老不死は果たして人間にとって幸せなのか?」
作風はファンタジー志向と言うか、見た2つの作品とも舞台設定は未来に飛ぶ。「伯爵のおるすばん」は5つの時代のエピソードからできていて、始まりは1722年、次第に現代に近くなり、時代を超えて、最後には地球滅亡の日に至る。その間、56億年の物語が不死の定めのある伯爵(前田雄雅)と共に語られる。
それぞれの時代のエピソードは仕込みがあって面白いが、「花柄」のような具体性を欠くので、変化に乏しくなる。花柄が、落語の師匠に軸を置いてブレないが、こちらのブルボン伯爵は国籍も明確ではなく一貫性も見えないし、女性である。観客にとって具体的につかみにくい。ファンタジーはキャラクターものでもあるので、この「伯爵」の設定が苦しい。時代が変わるにつれて、存在そのものが具体性を欠くようになって、伯爵役の前田雄雅も戸惑っているようにも見えた。ファンタジーをうまく使って現代劇を作ったのはイキウメだが、こちらも芯の構造がしっかりしていると面白いファンタジー世界になったのにと残念。だが、今の劇界を見渡してこういう作風の作者が少ないだけに貴重な存在だ。
吉祥寺シアターはアゴラよりは一回り大きい小屋だが、見た回は3分に2くらいの入り。しかし、もうこのクラスの劇場での上演は出来るレベルは達成している。しっかり足場を固めて、次は1公演・公演数15を目指して、ユニークな舞台を見せてほしい。期待している。それにしても、この作者、どこから出てきたのだろう?