実演鑑賞
満足度★★★★
サンジェルマン伯爵といえば『サイボーグ009』の単行本の書き下ろし短編、石森章太郎が彼の正体を推理する作品で知った。不老不死の男、時空旅行者、未来人、宇宙人etc... 、色々な考察がある。
だが今作ではその辺は余り関係ない。18世紀の終わり頃のフランス、ずっと橋の下で暮らしていた浮浪者。奴隷商人の仲介でブルボン公爵夫人に買われる。設定やキャラが『花柄八景』と地続きなのはご愛嬌。
展開は4コマ漫画の連作集を思わせ、業田良家『自虐の詩』を想起。パラパラと捲っている内にいつしか長大な時間の流れを感じさせるテクニック。話は壮大でスピルバーグの狂った映画、『A.I.』や『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』、『火の鳥 未来編』の哲学性も帯びる。
主演の前田悠雅さん、この人は何なんだろう。特徴的なくぐもった鼻声。シーンによって森川由加里だったり水川あさみだったりに見えるが結局誰にも似ていない。凄いカリスマ性があり、作品創作のファム・ファタール的存在。この人を使えば特別な作品が出来上がると作家に思わせる力。ファンの崇拝を集める巫女。なんかカスパー・ハウザーっぽい。
相変わらずの岡野康弘氏の天才振り。この人の声色はどうなっているのか。化物だ。
岡田帆乃佳さんは何でも出来る使い勝手の良さ。どの役もきちんと演じ分けている。
森由姫さんはまさに清純派アイドル、病弱キャラがいい。
仲美海さんもかなり弾けた記憶に残るキャラ。
永遠に死ねない伯爵の素敵な人々との出逢いと別れ。
小泉今日子の『丘を越えて』が宇宙の始まりから終わりまでずっと流れ続けているようなノスタルジー。
観客の誰もが帰り道、ずっと昔にこんな映画を観たことがあるような不思議な気持ちになる。