魔と怨の伝説 公演情報 劇団1980「魔と怨の伝説」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「何かつまらなそうだな」と内心思っていたのだが、いざ観てみれば大当たり。気の狂った脚本にゾクゾク。これが映画だったらカルト扱いで大井武蔵野館辺りで延々特集上映されていたことだろう。橋本忍監督作品に通ずる魅力。ただ、一般的には訳の分からぬ超論理に敬遠する方が多いことも確か。

    東大卒の息子の農林省への就職が決まり、可愛い婚約者をお披露目するホーム・パーティー。一家の幸福の絶頂の時にそれは起こった。真面目一徹の会社役員の父がパーティー後に息子を滅多刺しにして殺した。止めに入る妻も大怪我。逮捕勾留された父の裁判が始まる。仏頂面で何も答えようとしない父。検事と弁護士の攻防。誰にも理解出来ない父の動機。

    後方のスクリーンに映し出される映画のスチールのようなスライド写真。非常に解り易い演出。裁判所から話は始まるが、段々と異世界に迷い込んでいく『羅生門』のようなスタイル。

    ずっと仏頂面の父親、神原弘之氏が素晴らしい。全く内面が掴めない。
    弁護人、青木和宣氏も自然な語り口で巧い。
    証人として呼ばれた刑事、木之村達也氏はずっとニコニコ笑っている。この役作りは怖ろしい。
    検事補の角島(かどしま)美緒さんは北川景子や葉月里緒奈系の迫力ある美人。
    息子の恋人、山丸莉菜さんはいつもながら可愛かった。彼女が出ているだけで作品の生命力が変わる。
    巫女の上野裕子さんも強烈。いつの時代の話なのか?

    ネタバレBOX

    裁判が進んでいくと、殺された息子が証人として現れる。父が完璧に用意した英才教育、何も選択出来ず鬱屈を抱えたまま素敵な家族を演じ続けたこと。
    父は捨て子で東北の養護施設を点々とし、ある家族に養子に貰われた。どうにか勉学に励むことで苦境を脱し、一流企業に就職、妻と子を持つ。だが本当の父親を知らない自分には真似事の父親しか出来ないというコンプレックス。

    そして時空は遡り、父の産まれた本州最北端の部落。その地は激しい潮流の為、漁業も出来ず、たまに流れ着く難破した船の積荷が生活の糧であった。その年は難破船もなく、食糧難の為、子供を産むことが禁止される。而して産まれた赤ん坊は殺すに殺せず養護施設に捨てられる。

    裁判所に会いに来た実の父親を殺そうとする主人公。「俺が本当に殺したかったのは“父親”だったのだ」と。そこに祈りのような歌が流れる。今や廃村となった生まれ故郷の部落で母親達が歌っている。(ここの歌詞がはっきり聴き取れないのが残念)。呆然とする主人公。降り続ける雪。

    いろいろと解釈は可能だが、もう少しラストを上手く纏め上げたらとんでもない傑作になり得た筈。息子を殺さなくてはいけなかった理由が観客にも共有できたなら。

    冒頭から襤褸を纏った異形の者達がそれぞれ原始的な道具を使って効果音を鳴らし続ける。この演出が禍々しくて蠱惑的。

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    2022/08/21 19:58

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