実演鑑賞
満足度★★★★★
黒いゴミ袋が四方に積み上げられた中に、一本の電信柱。ゴミ袋の一つから男がヌッと顔を出して語り始める。格好つけたセリフはつかこうへいのようだと思っていると、この都会の片隅のゴミ捨て場で、全く関係ない人たちが出会っては通り過ぎていくのは別役実的。ロマンチックな大げさな音楽で雰囲気を盛り上げるのは唐十郎のよう。さらに仙石イエスがモチーフの「パパ」老人と娘たちのやりとりは、末娘の一本気な直言で一気に「リア王」の場面に近づく。
現れるのは、ゴミになった記憶喪失の男(坂本弁護士)、ごみ収集の中年男と若い助手、ホームで絡んできた酔っ払いを突き飛ばして死なせてしまった女、しつこいムラカミ部長と嫌がるOL、パパと付き人と六人の娘たち、教団から娘を奪い返そうという老夫婦。さらに近所の中学生と雑誌記者が「ゴドー」の使いのようにちょっと顔を出す。
若き日の坂手洋二作は、演劇スタイルも内容もごった煮のようになんでもかでも放り込みながら、全体の筋はしっかりと押して一つの作品として成立している。竹藪2億円事件、昭和天皇の死去、女子高生コンクリート詰事件など、80年代、90年代初頭の時事も散りばめられ、作品の時代を感じさせる。
休憩なし2時間半と長いし、演技は芝居がかって大袈裟だったり棒読みだったりして、あえてドライに突き放して演じている。しかし、次々起こる場面は、パパの娘たちの仕草を筆頭に、女と坂本弁護士の対話など、緩急が見事で見ていて飽きない。女たちがゴミ袋にモグって息を吸うお勤めは奇抜。実に演劇的というか、面白い🤣。
使い捨ての大量消費社会への批判の奥に、父と娘の悲しく切ない絆がさまざまに変装されて見え隠れする。