ブレスレス【7月15日~25日公演中止】 公演情報 燐光群「ブレスレス【7月15日~25日公演中止】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2022/07/27 (水) 14:00

    座席1階

    1990年初演。その後3回の再演を経て、2020年代にまた再演である。とはいえ、前回の再演が2001年だから実に20余年ぶり。私が見るのは初めて。燐光群の源流を探る旅である。

    千石イエス、坂本弁護士事件、東京のゴミ問題。昭和の事件や社会問題をモチーフにしているが、当時の香りがするというより令和の時代の物語として新鮮なイメージで受け止めることができる。

    中防、すなわち中央防波堤外側埋立地。東京湾をゴミで埋め尽くして新たな土地を作った。青島幸男知事が公約で中止すると言った臨海副都心開発でできた土地だ。土地さえ作れば右肩上がりでその価値が上がっていくというバブル経済の象徴とも言えるその埋め立て地は、この舞台を埋め尽くしている黒いごみ袋でできている。自分にとっては、東京の埋め立て地のイメージは今ではほとんど見かけないこの真っ黒なごみ袋なのだ。
    物語は、中防へ運ぶために総武線が近くを走るビルの谷間でごみ処理に携わる都職員が、燃えるごみの日に出された不燃物の瀬戸物で指を負傷するところから始まる。

    舞台の脇に裸電球を付けた電柱が立っているが、これを見て自分は別役実の不条理劇を思い出してしまった。事実、この舞台は別役が描いた不条理劇を地で行くような物語の展開を見せる。捨てられた冷蔵庫からきらめく後光を背に現れた白髪の老人は都市の暗部に君臨するイエスキリストのようだ。最初にごみ袋の中に入って登場する男は物語を経て記憶を取り戻していくのだが、この人のそばを通りかかった女性も次第に重要な地位を占めてくる。この女性は、絡んできた男を線路に突き飛ばして刑事裁判にかけられた過去があり、ごみ袋の男が女性を助ける役回りを果たしていたことが分かるなど、登場する人間たちの複雑な模様に客席はぐいぐいと引き込まれていく。

    世の中で起きていることを多彩な角度で切り取るのが演劇だとすれば、まさにこのブレスレスは演劇中の演劇だし、演劇でしか描けないような物語・構成を見せてくれる。さらにパンフレットを手に取って初めて得心したのだが、冷蔵庫から出現した老人は千石イエスというよりは、リア王だ。だから、末娘がキーパーソンになっている。

    東京でしか描けない、東京の演劇である。今回、コロナ禍で最初の数日が中止になり、昨日からの上演という。自分は見ることができてとてもラッキーだった。
    パンフレットによると、別役実はこう述べたという。
    「久しぶりに、文字どおりの力作と言えるものであり、今後演劇はこのようにしか動いていかないであろうと考える」
    至言だ。もしかしたら、舞台脇の電柱は、別役実へのオマージュだったのか。

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    2022/07/27 20:20

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