出鱈目 公演情報 TRASHMASTERS「出鱈目」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    多くの市民が関心を持っている問題をドラマ化する社会劇は演劇の大きな役割の一つだ。個人的な若者心情を歌や踊りやミニマリズムで表現することが全盛だった小劇場演劇の中で、正面から社会的なテーマに取り組んで、演劇の空気を変えたトラッシュマスターズの功績は大きい。初期の「背水の孤島」〈2011〉の衝撃は大きかった。柱になった劇作家の中津留章仁も期待に応えて次々と社会問題を舞台に上げてきたが、それよりも、このヒットを追うように多くの若い作家が現実に根ざした素材で優れた舞台を書く先駆けとなったことを評価すべきだろう。
    今回は現実に起きた表現の不自由展で露わになった言論・表現の自由と、公との対立を素材にしたディスカッション・ドラマである。現代社会の重要な問題で、その議論はここではとても言い尽くせないが、議論を深めることは必要だ。その意味では上演の意義のある公演だが、演劇である以上それだけではただのキャンペーンになってしまう。
    演劇としていえば、久しぶりにイマの社会のツボにはまったテーマだった。ここのところ、テーマの選択や取り組みも、ドラマの展開もやや類型的になっていた中津留作品としては緊迫感のある討論劇になっている。2時間半飽きさせない。主人公が結構大きく揺れるのだが、そこが人間的にも同感されるように描かれているのがよかった。周囲の人物が便宜的になるのはやむをないが、人物や問題を少し削ってでも、周囲を分厚く描くことは必要だと思う。やはり、主人公の家庭や職場の人間設定などは安易だと思うし、それぞれの人物の行動もシーンもコクがない。部品の兵器転用や、ラストのデートのくだりなどはもっと工夫しなくては。絵画のタイトルで言葉遊びなどやっている場合ではないと思うのだが。
    久しぶりに劇団の主要な男性俳優はほとんど出ていて、彼らはずいぶんベテランになって、(よく他の公演でも見るようになった)本の甘さを救っている。残念なのは、女優が育っていないことで、今回も大劇団の客演である。これからの社会劇に女性問題は欠かせないテーマなのだから、少し長期的な視野で女優発掘を心がけたらどうだろう。

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    2022/07/21 23:47

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