映像鑑賞
満足度★★★★
今回も映像にて。アルコール依存の題材は一度やったと言い、「犯罪」と並び作者の関心領域が分かる気が(そう簡単に分かってはならんが)。
バーの内部が舞台。なぜここだけに来るのか・・・依存症疑いだったり確定だったりする「問題児」たちが、ご多分に漏れず貧乏ならバーには来ないだろう、とか、正当化の厳しい所は色々とあるのだが、何にせよ人が集まって賑々しくやってるのは(たとえ深刻な問題を抱えていようが言ってしまえば困難は人生につきもの)見て楽しい。泊まり込んだりが許されるのも「集まる」理由かもであるが。違和感と荒唐無稽への訝りを持ちつつ、成行きを見て行く内、最初はアルコール依存に関する啓蒙劇(お説教芝居)に見えていたのが徐々に様相が違って来る。終わり近く、酒量がエスカレートし抜け出せずに孤独を抱えていた者がついに亡くなる(形としては泥酔からの事故)。状態を見かねたマスターが「普通はこんな事は客に言わない」と彼に病院を勧めた直後であった。酒飲みの事情をよく知る実は自分も断酒十年のマスターは、男を助けられなかった事に絶望するのだが・・男はしかし常連客に囲まれていた。酒を断つと決意した男も、何故かバーにやって来て炭酸水を飲む。客観的状態としてはこのバーが、何かの仕掛けでアルコール依存者が集まって来るようになっている、そういう場所と想定するのが最もスッキリするが、その真実味はどちらでもよく、徐々にこれはバーの常連たちの群像劇であり、特殊な人間や場所を描いたのではないと思えて来る。
酒を飲む以上、そしてこの社会で生きる以上、(重篤か軽微かにかかわらず)病的である事に何の不思議はないと気付き、芝居がこの社会の断面を切り取った風景とさえ感じられて来たわけなのであった。
最後にぐっと説得力を持つ。試合で言えば逆転劇。
ただどなたかも触れていたが、飲んだくれ急先鋒が最後、「炭酸水」と言ったのに、マスターは乗っからなかった。疑いつつもそれに乗る、という瞬間は欲しかった。