ザ・ウェルキン【7月21日~24日公演中止】 公演情報 シス・カンパニー「ザ・ウェルキン【7月21日~24日公演中止】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    なかなか面白い現代劇である。
    宣伝では「12人の怒れる男」のにならった推理劇と言っているが、それは看板にすぎない。
    登場人物は確かに12名。対照的にここは女性のみ、しかも妊娠経験のある者ばかり。彼女たちが被疑者(大原櫻子・意外の大好演)が妊娠しているかどうかを審判する。その審判が行われるのは18世紀半ばのイングランド。当時最も合理的思考が支配的だった地域なのだろうが、彼女たちの審判の思考過程や生活環境は現代とはもちろんズレている。しかし、ここが非常に面白いのだが、その判断の中に、今も我々が生活規範として信奉していることも少なからずある。時代それぞれの論理と倫理の落差を感じながら、ドラマが進行するのが新鮮だ。テーマとしては直截に女性のジェンダー問題が取り上げられるが、その先には人間が子孫をつなぎ、文化をつなぐ営み(歴史)への視点がつながっている。
    推理劇と言うが、被疑者がとらえられている罪は、今はもう存在せず、忘れられている罪状への決まり(法)だ。この辺の設定も非常にうまい。犯罪の方はどうでもいいのである。
    罪を犯しても、妊娠している罪人は死刑だけは免れることができる、と言う法があった。被疑者は妊娠していると言って死刑を免れようとする。そこで、妊娠経験のある女性が集められて果たして彼女の主張が正しいかどうか判断するためこの審判が開かれることになったのだ。当時としては進歩的だった(実体験検証)である。
    最近の裁判でもこんなこと、やってんじゃないの?と言う作者の冷めた目が次第に観客の客観的な視点にもなってくる。
    舞台は二部構成で、短い世態スケッチのほかは、12名の審判する裁判所の白で統一された一室のみ。ここも「怒れる男」と同じだが、事の正邪ではなく、物事を判断する、のは時代を超えて何時もあったことだが、それは移ろう。しかも当事者は気づかない。ここは正邪も判断も安定している「怒れる男」とは大きく違う。被疑者をめぐる一つ一つの話題の選択が巧みで、現代の観客も引き込まれる。しかも、議論が、一方の主張に傾斜して感情的になることがない。劇としてはものすごくうまい。
    ここは若い演出家・加藤拓也らしいところで、どこまでも冷静なのだ。現代の、時代が変われば、どうせ判断も変る、という判断中止の世情を映している。現代劇なのだ。
    終幕の歌(富山えり子・歌も曲もいい)になって女性たちが唱和するシーンになっても、決して煽ることはない。「友達」でも見たが、舞台の上の集団をうまく動かして、普通ならそこで感情を盛り上げるところを時代の「風景」にしてしまう。新しいタッチが舞台の魅力になっている。舞台面のつくりもうまい、休憩に入る前、煙突にカラスが飛び込んで煤まみれになるところなども、戯曲指定かもしれないが、作りがよく出来ている。
    女性を演じた12名の俳優にはそれぞれしどころがあって、みなその期待にこたえている。吉田羊は主演が務まる女優ということを実証した。久しぶりに見た長谷川稀世が無理なくカンパニーの中に溶け込んでいたのもさすが。この本を発掘してきたシスカンパニーもさすがである。タイトルの「ザ・ウエルキン」はイギリスの古語で天空・蒼穹の意味の由。変に甘い翻訳をしないで放りだしているところもいい。
    見た回は九分の入り。







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    2022/07/14 12:42

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