コースト・オブ・ユートピア-ユートピアの岸へ 公演情報 Bunkamura「コースト・オブ・ユートピア-ユートピアの岸へ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    3部通しで-贅沢なフルコースディナー
    9時間近い作品を通しで観る不安はあったが、心配したほど疲れなかった。
    ロシアの歴史もので印象的なのは映画の「戦争と平和」「ドクトル・ジバゴ」で、どちらも長編だが素晴らしかった。この作品もまた想い出に残る作品となった。
    まず、当初購入した2階BOX席から舞台構造上見えづらいとの理由で、急遽劇場側が1階のBOX席に変更するというハプニングがあった。これが紗幕に挟まれた席で、通常なら舞台の袖に当たる。結果、舞台転換がすべて見えてしまう。役者の出の瞬間の表情を見られるのも興味深かった。スタッフの一員になった気分なのだ。これをおいしいと思うか興ざめと思うかは人によるだろうが自分は前者。開幕時、殺風景なテーブルの前に集まった稽古時のような普段着の俳優が解散して、扮装を始める。途中からは紗幕に隠れる部分も自席からはすべて見える。
    難点は自分から見て反対側の舞台の奥が見えづらいことで、そのために
    俳優が隠れてわからない場面もある。演説の場面で聴衆役の俳優の後ろから一緒になって拍手してしまい、思わずハッとした。完全に劇の中に取り込まれている(笑)。
    通しで観終わっての感想は、集中でき、壮大な物語全体の流れが掴めるのが利点。理想的には、最初通しで観て、次に各部を観ることだろうが、時間的も経済的にも自分には無理(笑)。
    やはり、トム・ストッパードという作家は素晴らしい。
    まさに骨太の戯曲とはこういうのを指すのだろうな。
    阿部、石丸、別所、勝村、この4人の主要俳優の熱演とロシアの女性を悠然と演じる麻実れいの存在感が印象に残った。

    ネタバレBOX

    あまり馴染みがないロシアの革命家や思想家が登場し、議論の内容も難しい。頭が良くないのでよく理解できなかったが、物語の世界は堪能できた。
    退屈させない蜷川幸雄演出に感謝する。精神的に老いない彼にはまだまだ長く仕事をしてほしい。
    1部はチェーホフの「桜の園」を思わせる貴族社会の崩壊とノスタルジー。2部は男女の愛憎を横軸に革命が展開。3部は歴史的終息と次代の萌芽。ロシア人というと肉食系大男というイメージが浮かぶせいか、日本人が演じること自体、何か嘘っぽく感じられるのでは、と観る前から危惧していた。
    芝居が始まってしまうとさほど違和感はないが、勝村政信が登場するとやはり小男でロシア人には見えない。だが、彼は終盤、特殊メークで太った老人に変身し、その風貌をネタに周囲の役者にいじられ、滑稽な演技をするので、あまり気にならなくなる。
    今回、宝塚OGが3人出ているが奇しくも雪組出身者。3人とも下級生のころから観ているが、生の舞台では久しぶり。宝塚というと見下す人もいるが、宝塚はいまも女優の宝庫で、日本の演劇文化に重要な人材を輩出していることを実感。大味で大根と言われた麻実、歌以外が弱いと言われた毬谷、子供っぽいと言われた紺野、みな当時が想像できない堂々とした女優ぶりだ。
    栗山千明は若いころの蜷川有紀そっくりで個性的。サトエリはグラドルから舞台女優へ見事転進したし、とよた真帆もananのモデル時代のあどけなさは消えてしっとりとした大人の女の哀愁を出せる女優になった。
    水野、美波、京野はこれからまだまだ成長するだろう。
    若手男優陣では池内博之が印象に残る。こんなに巧い俳優だったかと再認識。当日出演を知ったのは阿部寛の長男サーシャ役の遠山悠介。東大の学生劇団劇工舎プリズム出身で、大学生のころ観ていたのだ。こんな有名男優に混じって芝居してるなんて夢のよう。幕内で阿部に一礼してからスタンバイする姿を見て、ほぉーと思った。
    演出ではスローモーションを多用しており、各部では気にならないのだろうが、通しで観ると多いと感じてしまった。仮面舞踏会の場面で赤毛猫(手塚秀彰)を視覚的に出すのが面白い。
    席の位置から、1部の毬谷、2部の麻実がどこに出ていたかよくわからなかったのが残念。
    3部終盤、阿部のゲルツェンの述懐が今日の共産主義の零落を予言しているようで興味深い。徒労感もあるだろうが、目的や使命感を持ったゲルツェンたちには確かに国家の歴史をつくり、生き抜いてきた実感があり、日々の喧騒に押し流されがちな現在のわが身を反省した1日だった。

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    2009/10/06 05:40

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  • いやー、tetorapack様ありがとうございます。
    実はこりっちでない個人ブログに、いつも私がチケット入手できない垂涎物の公演の劇評を豪華ディナー付きで書いてくださるかたがいて、私もそれを読んで「観劇したつもり」になってるんですけどね。そのかたも上演時間であきらめた、と。体力ないからって。私もないですけど、座布団を持っていけというアドバイスをネットで読んだ人が教えてくれて。それで、お尻は何とか。いつも小劇場で2時間でも作品によってはグェッとなるのに、不思議と観ちゃいましたね。
    内容は難しくて、この頭じゃわからんちん、なんですけど。革命の雰囲気だけ、ね(笑)。
    毬谷さん(トンちゃん)はいま、ほとんど歌わなくなって「雨の夏三十人の・・・」(初演しか観てません。今回は観てない)で「毬谷って歌巧いのね」と言う人にビックリ。歌唱力をかわれて、在団中、外部の「シェルブールの雨傘」に羽賀研二の恋人役で抜擢されたんですから。今回の毬谷さんは、子持ちの娼婦役が印象的で、ドスのきいた声に、「これがあのブンガワンソロを歌った子?」とわが耳を疑いました。そのとき「ジャワの踊り子」でTOPを勤めたのが麻実れいさんですからねぇ。将来のプリマドンナといわれた澄んだ美声で、当時、東京宝塚劇場内で流す「さようなら皆様」「すみれの花咲く頃」のレコードは彼女が担当してたのです。今回は肌もあらわなドキッとするラブシーンがありました。オガリョーフの頭を豊満な胸にかい抱き、何しろ、清純派のイメージしかなかったのでちょっとしたカルチャーショックでした。こういう役を演じるようになったのかと。色なら濃いパープルってところですかねぇ。
    物語に限れば、トリプルキャストでも、帝劇のようにロングラン公演があればよいのにとも思います。短すぎますね。

    2009/10/06 21:14

    こんにんちは。tetorapackです。
    いやー、たしか途中休憩を入れると10時間を超す大芝居の通し観劇、お疲れ様でした。
    私も、これは観ようかと悩んでいたのですが、結局、観ずに終わってしまいました。観るなら通ししか日程が無理だけど体力的に耐えられるか、という点と、お値段の問題で(笑)
    そこで、きゃるさんの「観てきた!」は特に、刮目して読ませてもらいました。

    >不安はあったが、心配したほど疲れなかった。

    そうでしたか。いよいよ近づいてきた「F/T09秋」の事務局の人とお話しする機会があったのですが、その人も三作「通し」で観たということでしたが、やはり、すごく観る価値有りと言ってました。なので、ちょっと後悔しています。

    >購入した2階BOX席から舞台構造上見えづらいとの理由で、急遽劇場側が1階のBOX席に変更するというハプニングがあった。これが紗幕に挟まれた席で、通常なら舞台の袖に当たる。結果、舞台転換がすべて見えてしまう。役者の出の瞬間の表情を見られるのも興味深かった。スタッフの一員になった気分なのだ。

    それは、それは、羨ましい限りです。私めも、そんな位置を一度は経験したいものです。小劇場系演劇の「通し稽古」(ゲネプロではない)は何度か観ていますが、あれも面白いですよね。それにしても、これについての、きゃるさんのコメント、読めて良かったです。
    >ロシアの女性を悠然と演じる麻実れいの存在感が印象に残った。

    私は半年前、「ストーン夫人のローマの春」(パルコ劇場)で彼女の演技を観ましたが、どんどん、良くなっているのでしょうね。

    >歌以外が弱いと言われた毬谷……みな当時が想像できない堂々とした女優ぶりだ。

    実は、私も本作を観ようか、と悩んでいた一つの理由が、毬谷さんを観てみたいと思っていたからなのです。なかなか良かったみたいですが、もう少し、詳しく教えてくれたら、凄く嬉しいです。どうでした?

    >やはり、トム・ストッパードという作家は素晴らしい。まさに骨太の戯曲とはこういうのを指すのだろうな。

    はい、よく分かります。カネをかけた力作といわれる大芝居になるほど、やはり戯曲がものを言いいますよね。という意味では、やはり見た方がよかったな、と。

    すごく興味に叶う形で、きゃるさんがコメント書いてくれたので、本当に、この欄を見るだけでも、少し溜飲が下がりました。
    ありがとうございました。

    2009/10/06 16:58

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