『Drunk-ドランク-』 公演情報 singing dog「『Drunk-ドランク-』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    警鐘・喚起劇のような印象。
    アルコール依存症の問題を過不足なく、しかもリアルに描いた物語。けっして後味の良い作品とは言えず、どちらかといえば嫌悪感すら抱きかねない。それだけ現実に向き合っているということ。アルコール依存症の症状、そうなった原因、そして周りにいる人々、特に家族との関係が痛ましい。
    夜ごと集うDrunker、彼らをBarのマスターが傍観者的に観察することで、アルコール依存症者の異常さを際立たせる上手さ。同時にラストの衝撃さが…。
    なお、過不足なくと書いたが、未来(明日)は観客への投げかけであり、そこまで描くか否かは評価の分かれるところ。
    (上演時間1時間50分 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台セットは、劇場が公演の期間中だけ「Perfect Day Bar」を開店していると思わせるほど作り込んでいる。ほぼ中央奥にボトル棚・カウンター・腰高スツール、上手にトイレや深紅のソファ、下手に店の入り口や丸テーブル等が置かれており、酒場の雰囲気は十分だ。

    この店に来る客はアルコール依存症で、自分でも認識している人々だ。この界隈の店は出入り禁止にしており、集える場所はこの店しかない。そんな人々に酒類を提供するマスター・大崎(楢原拓サン)は、酔客を冷静に見つめ観察しているようだ。時に観客に向かって観察したことを説明するような口調になる。一見 不可思議な態度であるが、これはマスターの必死の虚勢、カモフラージュした姿である。ラストには驚愕の事実と姿を見ることになる。

    登場人物の苗字は、山手線の駅名と同じ。当日パンフに主宰・藤崎麻里さんが「これには大きな意味があり、終点がない、つまり終わりがないというメッセージを込めています」とある。そして二十年前には「私自身がアルコール依存症です」と告白している。劇中でも、同様の台詞をマスターが呟いているが、途中下車すること(人)もあると…。

    アルコール依存症になった原因などを一人ひとり独白するが、多くは仕事のストレスによるもの。飲みたくて飲んでいる訳ではない、という常套句のような言い訳が虚しい。本人の苦痛も然ることながら、周りにいる人々をも苦悩に陥れる怖さ。物語では、恋人(同棲している彼)が酒浸りで家に帰ってこない、夫がちょっとした切っ掛け(奈良漬けを食べた)でアルコール依存を再発した、といったリアルな事例を紹介する。

    物語では、医療機関から抜け出した者・上野(浅倉洋介サン)、家庭ある者・大塚邦夫(山城秀之サン)、恋人・渋谷美紀(山下智代サン)がいる者・田端(吉田雅人サン)、そして断酒を決意した者・馬場(井内勇希サン)・自分は違うと言い張る男・目黒(岡田篤弥サン)が登場するが、全て男性。アルコール依存症は性差に関係なく、女性の依存症者(の問題⇨妊娠・出産、キッチンドリンカー等)はどうなのか、といった観点も欲しかった。

    本人の精神的なイライラ、不安、焦燥感、身体的な震えや幻覚といった特徴、他方 家族全体が病んだ影響については、大塚の妻・麻衣(前田綾香サン)の苛立った言動や態度で示す。本人に強く断酒を迫る、半ば脅しの離婚を仄めかす強硬手段など、いかにも ありそうな現実を突き付ける。妻が実家に帰った数日で「日常がものぐさになってゴミの中で飲んでいた」「言行不一致、約束を守らない」といった行為は見捨ておけない。妻は「酒さえやめてくれれば」「酒を隠したり捨てたりする」という家庭内地獄が見える。

    解決策として、「医療機関」での治療や「断酒会」といった場での交流・相談を通して1人では難しい断酒への取り組みへ導こうとする。しかし、事はそう簡単ではないようだ。物語では1人のアルコール依存症の男・神田(坂井宏充サン)の末路を描きつつ、残った依存症者達は立ち直れるのか、といった明日を描こうとするが…。

    全体的に役者陣の演技力は確かでバランスも良かった。初日 冒頭の酩酊シーンは 少しぎこちなく違和感があったが、それ以外は安定していた。
    また劇中歌うシーン、カラオケを別にすれば2場面ある。依存症者皆で「アル中の行進」を歌う場面は、それでも断酒できない諦め または勇み、そしてマスターのソロには哀惜が…。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/07/01 05:48

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