恭しき娼婦 公演情報 TBS/サンライズプロモーション東京「恭しき娼婦」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    衝動買いでチケットを取って観劇したが、体調すぐれず(が原因で)3、4場あたりで寝落ち。フレッド父(町議員)と娼婦リッジーの会話の最後あたりで覚醒した。後の展開から推せば、空白の間にリッジーが「言いくるめられ」、後に良心の呵責に悩む原因となる出来事が発生している。
    「どう言いくるめられたのか」が抜けており、終演後も不十分感が残ったので後で戯曲に目を通せば・・
    なかなかの中身が詰まっていた。わあわあと台詞が鳴っているのは聞こえていた(言葉の意味が全く入って来ないが)ので、少しの間かと思えば、三場がまるごと抜けていた(二場の途中で眠り、四場の終り頃=長議員の言葉にリッジーが言いくるめられる場面で目覚め、休憩となった)。

    という訳で、戯曲から、舞台をある程度再構成して照合してみた。演出が何等かの狙いを定めて舞台を取りまとめた印象はあるが、それが何か。。
    古典と言える小編(同作者の「アルトナの幽閉」の半分程度の尺か)の栗山演出舞台の印象は、かなり大雑把に言えば、栗山氏の自発的な仕事というより「請負仕事」、奈緒の持ち味をどう生かして「恭しき娼婦」を成立させるかに腐心したと見受けた。

    冒頭、ミュートでつぶしたトランペットが鳴り、時刻不明の外明かりに目覚めたシュミーズ姿のリッジーをけだるく彩る。娼婦リッジーの「生態」に照準が当たるドラマかと思わせる。
    が、これ以降「娼婦」が焦点化される事はない。娼婦である事による必然の展開はあるが、彼女が娼婦である事により「何者」であったのかが炙り出されて来るようなドラマではなく、黒人差別が猖獗を極めるある土地の「真実」を伝えるのに娼婦である必要はなく、(戯曲の問題なのか演出の問題なのか)どちらを軸に据えたドラマなのかがくっきりとは伝わって来なかった。

    ネタバレBOX

    主人公のリッジーは天涯孤独の身で、一日前にこの町の駅に降り立ち、この部屋を契約した。普通ならこの娼婦が新しい町で商売を始める事になったいきさつに関心が向きそうだが、作者は観客の関心をそこに止めず、事態の推移へと振り向けさせる。

    冒頭の彼女がけだるさを振り払い、掃除機でガーガーと掃除を始める。そこへ男が訪ねて来る。窮迫した様子で彼女に救いを求める台詞から、彼は「黒人」であるらしい(この時点ではこの作品がサルトルの母国フランスの話だと思っていたので、黒人=アルジェリア人で民族独立に絡む話だと想像してしまった)。
    彼は昨夜、列車だか駅で白人女を強姦したという嫌疑で追われる身となった黒人の一人だという。列車に居合わせたのがリッジーであったので、彼の無実を証明してほしい、というのである。
    売春婦の身でしかもこれからこの町で暮らそうという矢先の厄介事は御免だと、彼女は断るが、既に絶望的な事態であると彼は嘆き、裁判になったら証言してほしいと泣きつく。リッジーは「分った」と返事をする。ここでの彼女は口先だけでなく彼の言葉に少なからず説得された要素がある。(ちょうど逆の事が、同じ日の後に起きる。)
    男が出て行った後、リッジーはシャワールームのドアに「もういいわよ」と声をかける。一夜を過ごした客、フレッドは先の黒人の「事件」と無関係ではない事がその後判る。フレッドは町議(戯曲では上院議員)の息子であり、地元では名士の家柄。従弟が黒人の片割れを酔って銃殺したというのが実は前夜の事件であった。
    ここでの伏線は、フレッドが予想外な事にリッジーを気に入ってしまった事。家柄ゆえに女性経験の乏しかった男が、初めての女性に熱を上げるケースにも見えるが、彼はこの町ひいてはアメリカの歴史を担った家系の末裔であり、やがて政界に進む宿命に自負を抱いている。家系を重んじるフレッドは、リッジーが黒人「事件」に関係している事を知っており、それで近づいた訳でもあったが、「心」を奪われた(らしい)事が彼の計算外であったと後の場面で判明する(そのように装っているだけ、と解釈する事も可であり、リッジーの目線ではどちらに解釈しようが結末は同じである)。

    私が見逃した三場は、警官が訪れ、黒人を匿うことに釘を刺し、あった暴行を正直に証言せよと迫る。だがそこには「結論ありき」の強引さがある。そこへ姿を現わすのが、先のフレッドの父である。老獪な彼は、「嘘の証言をさせるつもりか」と警官らを牽制し、彼女に「正直に」発言する事を勧める。だがその後、巧みに彼女の態度を変えさせる。彼女の弱点(家族がいないこと)に突け込み、彼の妹すなわち銃殺したフレッドの従弟の母親のはリッジーに感謝し、花束を贈るだろう事、きっとリッジーを家族同然に扱うだろう事を芝居心たっぷりに喋くるのだが、リッジーの脳裏に自分には手の届かなかった「家族」の風景が花咲き、思わず「証言書」にサインをしてしまう。直後、我に返った彼女は町議を呼び止めるが時すでに遅し、というのが「まるめこまれ」の場面であった。

    (続きはまた。)

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    2022/06/20 04:32

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