貴婦人の来訪 公演情報 新国立劇場「貴婦人の来訪」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    フリードリヒ・デュレンマット(1921~1990)の代表作を新国立の企画モノのラストと
    して演出。本作は「悲喜劇」として広く捉えられているそうなので、“喜劇”の側面を
    押し出したポップでカラフルな見せ方は、登場人物や出来事のグロテスクさを強調してて
    個人的にはかなり好感。万札が吹き出されるレプリカの銃がインパクトデカくて面白い。

    ネタバレBOX

    過去の栄光ははるか昔、衰退一方のデュレンの雑貨屋にして人望厚いアルフレッドこと
    イルと若い頃に深い仲だったクララが45年ぶりに故郷を訪れたことから始まる物語。

    クララはイルの子を身ごもったことで、半ば追放されるようにして故郷を離れ、遠く
    ハンブルグで娼婦に。そこでわらしべ長者よろしく7人の金持ちや著名人との結婚離婚を
    繰り返して、いつしか世界的なレベルの富豪(10兆払ってまだ手元には20兆あるらしい)へ。

    クララは乗っていた急行列車を金の力で停止させたり、ルーブルから持ってきた駕籠を男
    たちに運ばせたり、歓迎会の席では食べ物にフォークをぶっ刺したりしたままだったり、

    あり余り過ぎる資本をバックにした絶大なパワーと、上流階級とは程遠い粗野で無邪気な
    性格とが同居している複雑なキャラとして成立してて。なんか悪意のない傍若無人さが
    まんまキム・カーダシアンなんですよね…。

    初演当時の1950年代はまだナチスの影が色濃いだけに、小さな共同体の中にはびこる
    ファシズムの影を暗示していたのだろうけど。

    金融危機を経た現在だと、クララはグローバル資産家&インフルエンサーで、正義も
    倫理も金の力で蹂躙される新自由主義(といってしまえば楽だけど、国家間の成長率や
    GDPにみんなが一喜一憂するあたり、もう新自由主義といって非難してれば済む話でも
    なくなってる気がする)的な現状を表現しているような読み方もできて怖い。

    実際問題として、とんでもないレベルの資産家なら、ちょっとした国とか市町村レベルなら
    意のままにできそうだよな…。クララの「ヒューマニズムは資産家の財布のためにある」と
    いう身もふたもないセリフもそうした作品の一側面を見事に打ち出してるな、って。

    クララはイルを裁くというより、イルを手にかけさせることで、自分を捨てた街の人たちに
    永遠に消えない罪を負わせて裁くことが目的だった気がする。きっとイルが(街の長の思惑通り)
    自殺でもしてたら、10兆円の話とか無いものになってたんだろうな。

    そう考えると、クララは永遠にイルを自分のものにして、「過去を取り返した」わけで、
    ちょっと歪んだ愛の形を描いたホラーとしても見ることができるんだなって今気づいた。

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    2022/06/18 20:47

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