実演鑑賞
満足度★★★★★
2022年度第一期のシリーズ「声」第二作「ロビー・ヒーロー」に続いて、第三作を観た。1シリーズ3作中2作品観れて、しかも「当たり」というのは珍しい。
小川絵梨子芸術監督が打ち出す主催公演のテーマ設定やプロジェクトには理念先行の印象が勝つが、今回のテーマ「声」が何を照準しているかは判る気がする。もっともこの「声 -議論,正論,極論,批判,対話...の物語」は、演劇それ自体と言っても大過なさそうである。ただ、身体感覚に訴えるタイプの舞台、情緒に浸るタイプの舞台とは異なる領域を指していて、例えば日本という船を曳航するのが世論であるとすれば、そこには「言葉」と「論」が存在している。安倍某のようなトップが率先して「論」を破壊した焦土にあって、必要なのは言葉と論(理)が生まれる源(平たく言えば人間の営み)を見詰め直すことだと感じることしきりである(個々人の中に論があっても公論の場で有機的な交流=議論を阻む障害が・・以前からあったのだろうが・・目立つ)。そんな私の問題関心に応えてなおかつ面白い舞台だった。
ドイツ語圏スイスの劇作家ディレンマットの名を昨年あたりから目にし(「物理学者たち」)、今度また違う作品の公演があるとか。前世紀(冷戦期)の作家で寓意性が高い。今作では書籍なら帯、映画なら惹句になりそうな挑発的な物語設定があるが、それを「仕掛け」に来訪するのがとある貴婦人、これを演じる秋山菜津子がどハマり。彼女と相対する男を演ずる相島一之は劇が進むにつれ適役と思えてくる。
安部公房を思わせる思考実験に満ちた作品の持ち味がとてもうまく出せていた。