9人の迷える沖縄人 公演情報 劇艶おとな団「9人の迷える沖縄人」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    まずチラシやタイトルロゴが洒落ていて「おっ」と目を惹かれました。そこに9人、いるんですね。そして「9人」という人々がそれぞれ『有識者』『本土人』などのあるカテゴリーを背負っているのですが、それが、物語のための設定になりすぎず、そこに生きる一人ひとりの人間の存在として立ち上げられていました。それは取り上げたテーマの切実さでもあり、演劇への信頼と積み重ねがあるからではないかなと感じました。

    ネタバレBOX

    舞台は、1972年の本土復帰目前に集められた人々……を演じる現代の演劇の稽古場、です。この劇中劇の差がそれほどなく、物語としてはわかりづらいといえばそうなのですが、私はポジティブに受け取りました。1972年の9人の迷う声は、過去のものではありませんし、色褪せてはいけない。現代の自分達にとってもリアルな日常なのだ……という意志だと思えました。2つの時代がまざっていく感覚は、切実さでもありました。そう感じたのは、私の子どもの頃の沖縄での戦争研修にはじまり、その後何度か基地問題などに関わった実体験が呼び起こされたからかもしれません。とすると、観劇した人の沖縄との関係によって、感じたことや見える景色が違ってくるのかもしれない……他の人の感想がとても気になるなと思いながら客席に座っていました。
    また、「役を演じているシーン(劇中劇=1972年)」と「演じていないシーン(現代)」が入り混じっていくことで、演劇(非日常)と演劇以外(日常)の境界が曖昧になります。それは、沖縄のなかでさまざまな演劇活動をする俳優達が集った今舞台において、「演劇ってけっこう身近だよ」「演劇を好きになってほしいな」というアプローチにも感じられました。沖縄で活動する9人の沖縄演劇人たちによる、演劇熱に満ちた作品だと思います。

    復帰にまつわる情報量が多く混乱するところもありますし、構成としても「学び」感があります。けれども、息を抜ける工夫も散りばめられていました。スクリーンとイラストを用いるシーンでは客席からリラックスした笑いが起こり、深刻な話が続く中でちょっと離れた場所で太極拳(?)をする復帰論者(犬養憲子さん)は空気をまろやかにしていました。宮城元流能史之会の宇座仁一さん(文化人役)が踊るシーンは劇中において大きく空気を変え、それまで作品を覆っていた「言葉」とは違う手段で沖縄の歴史や文化を舞台上に出現させる印象的な時間でした。
    また、地元で上演したからでしょうか、上演中に客席から「へえ~!」「あれってこうだよね!」など気負いないポジティブな声が聞こえてきたのも印象的でした。

    ドラマティックな音楽や照明など、基本的には賑やかな舞台のなかで、音はせずに存在する扇風機がいいですね。風が吹き続けますように。

    終演後、個人的に沖縄の味や踊りを楽しみ、またひめゆり平和祈念資料館や平和記念公園をまわりました。これまで何度か訪れた沖縄が、また違ったふうに見えました。劇場に入る前と出た後では世界が変わっている。それが身に染みた観劇でした。
    これまで沖縄以外で上演されたこともあるそうですが、今後も再演していくにあたっては、県外の人に向けた「作品+沖縄の〇〇」のパックやツアーなどもあると、演劇と生活と自分の生活以外の現実が地続きになっていくのではないかな、それができる強度のある作品だなと思いました……と勝手な願望と妄想が膨らんでしまうほど、沖縄で観られて良かったです。

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    2022/06/16 16:33

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