実演鑑賞
学園もののドタバタコメディーで、サービス満点の娯楽作でした。大勢の登場人物を細やかに書き分けて、活きのいいセリフで空気が弾ませ、笑えるネタやエピソードもたっぷりです。脚本・演出の川口大樹さんの技量にあらためて驚かされました。
いっときの嘘だから、フィクションだからと気を楽にして勇気を出して、ちょっと羽目をはずしたり、できないことに挑戦してみたり、いつもとは違う姿を見せたりできるのは、演劇のマジックです。誰もがその魔法を自分にかけることができる…そう受け取れました。
最初の場面で主人公(野村世界役:荒木宏志)が「僕の、理想の世界です」と言っているとおり、いかにも“つくりもの”らしいハッピーな世界が繰り広げられます。「昔ながらの高校生活あるある」「昔の少女漫画的ストーリー展開」なども狙ったものだと思いますが、男子生徒の学ラン、女子生徒のミニスカート、女性教師のスカート姿などの定型的な表象には、首をかしげざるを得ませんでした。ひとめで属性やキャラクターがわかる明快さを優先したのかもしれませんが、今、上演することで古い価値観を延命させてしまう可能性にも、敏感であって欲しいと思います。
“みんなのお母さん”的な立場の年配女性(駄菓子屋店主)が登場したり、描かれる恋愛が男女間のものだけだったりして、ジェンダー不平等や性的マイノリティー差別への問題意識が薄いことも気になりました。サッカー部男子による体育会系のホモソーシャルな人間関係についても、俳優の演技は達者でしたし、微笑ましく描かれてもいましたが、私は積極的には楽しめませんでした。女子生徒が男性教師に恋をするエピソードも、無批判に描いていいものではないのではないかと個人的には思います。グルーミングという加害の深刻さを知ったので、特に警戒してしまいます。
出演者のなかでは女性教師・館山絵リ咲を演じた横山祐香里さんに何度も目を奪われました。どういう設定で何が求められているのかを的確に把握し、必要十分な表現を全身で行った上で、さらに観客へのきめ細やかな応答もされていたように思います。キビキビとした素早い動きとバシっと決まる表情も魅力的で、次は何をしてくれるのかなと期待して見つめていました。
ロビーのグッズ販売が充実しており、私は上演台本を購入しました。当日パンフレットに顔写真付きの出演者紹介があってよかったです。誰がどの役を演じていたかが明確にわかるパンフレットが欲しいといつも思っています。
カーテンコールで「CoRich舞台芸術まつり!2022春」最終選考対象作品であることの紹介と、「こりっちにクチコミしてください」等のアナウンスあり。ありがとうございます!
CoRich舞台芸術!の公演情報では「上演時間: 約1時間30分(休憩なし)を予定」ですが、劇場では「上演時間は2時間」となっていました…私、パニック状態になってしまいまして(大汗)、劇場スタッフの方々にさまざまなご迷惑をおかけいたしました…申し訳ございませんでした。上演は最後まで観られたのですが、終演後のトークは聴けず…無念!泊篤志さん(飛ぶ劇場)にお会いしたかったです。