ネオンの薬は喋らない 公演情報 人間嫌い「ネオンの薬は喋らない」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い…お薦め。
    初見の劇団「人間嫌い」、劇団名とは真逆の人間を愛おしむような優しさがあり、心が温まる物語。ネオン街にある深夜営業の薬局を舞台に、そこに何となくやって来る人々との交流を通して、人の孤独・寂寥といった思いを癒すよう。薬では決して治せない、さり気ない心のケアが観る人の心に響く。

    当日パンフに、主宰・岩井美菜子女史が「人間嫌いの問題作だと思っている。『共感』を武器に戦ってきた。今作は『共感しない』ことを主軸にしている。大きな挑戦」とある。その意図は、良い意味で裏切られ、大いに人間讃歌を謳っているようだ。劇団名と違って「好き」になった公演であり劇団である。
    (上演時間1時間45分 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    客席はL字型で、英字の曲がった対角線上に舞台セット。少し高くした変形台の中央に薬局のカウンター、両側に薬剤が並ぶ棚がある。客席側に円柱型(上部の円周部分は電飾)の腰掛が点在している。全体的にオフホワイト、スタイリッシュな印象である。

    物語は、ネオン街にある深夜薬局「LUNA」が舞台。この店は19時から翌朝5時まで営業しており、利用客のほとんどが深夜勤務者。店主・水瀬(芦田千織サン)は、薬の販売だけではなく諸々の話し相手になっている。その彼女が交通事故で全治三か月の重傷を負う。仮店主として後輩の前澤(河村慎也サン)がくる。薬剤師の資格はあるが、前職が麻薬取締官でコミュニケーションは苦手のよう。今までの仕事と勝手が違い戸惑う前澤、一方、水瀬との会話で癒されていた常連客?の不安、その両方の気持がどう展開していくのか。序盤のうちに興味を惹かせる巧さ。物語の狂言回しで、事務員・なるみ(高坂美羽サン)は、コミュニケーションもあり上手く立ち回る。前澤は なるみ に𠮟咤激励されながら、何とか仮店主を務めている。

    登場人物は、夜の街で勤める女性たち…ラウンジ嬢・かれん(藤崎朱香サン)は、職場内での禁断の恋に悩む。キャバ嬢・トモ(岩井美菜子サン)は、かれんの友人で、仕事の頑張り過ぎで円形脱毛症に悩む。保育士・平石(青山美穂サン)は、深夜の保育園勤務。人手不足・忙しくてトイレに行けず膀胱炎で悩む。かれんの妹・モカ(樋口双葉サン)は、姉の帰りを待って街を歩く。金髪、セーラー服にルーズソックスという姿は、一見不良少女のよう。深夜見回りをするNPO法人「トラブルブルー」の下園(飯野くちばしサン)は、モカに声掛けするが…。それぞれが抱えた問題や悩みを、薬局「LUNA」を介して点描していく。全てが解決する訳ではなく、薬の処方箋もあれば話を聞くだけといった寄り添った対応が、スッーと心に沁み込んでくる。

    薬局の近くにある 花屋の柳(川勾みちサン)は対人恐怖症、それでも薬局では話が出来る。唯一会話が出来る場所のようだ。夜働く女性たちの悩みを聞くことは、同時に前澤も心の触れ合いが大切だと気付くことになる。前澤の悩みは、前職が関係しているのか、相手が自分の顔が怖いと思い込んでおり、コミュ二ケーションが苦手だったよう。それが、いつの間にか”マーくん”と親しみを込めて呼んでもらえる、そんな成長した姿も描く。

    キャストは、個性豊かで癖のある人物像を見事に立ち上げている。ネオン街という煌びやかな光景とは逆に、人の心は荒んでいる。何となく殺伐とした風景に温かみを漂わす。しっかりした人間関係が在るわけではないが、その場所「LUNA」を通じて緩やかに関わり合う。人情とは少し違うが、それでも人を思い遣る心が感じられる。舞台セットと相まって、マーくんがモカに傘をかざすシーンは抒情的で美しい。演出も上手い。
    岩井さんは「共感を放棄しても、客席と繋がることができるでしょうか?」と問い掛けているが、十分楽しんで観ることができた。いいお芝居という妙薬効果かなぁ。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/06/05 07:14

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