実演鑑賞
満足度★★★★
リアリズム劇ではなく、寓話である。大金持ちの夫人が町に10兆の金を寄付する条件として、30年前?自分を裏切った恋人の男を殺せと要求する。うち5兆は町民に分配するという。人口1万なら一人5億? この突飛と言えば突飛な、単純と言えば単純な芝居が何度も上演され、何度も(各国で)映画化されるのはなぜか? おそらく様々な解釈を生み出すからだろう。
金の誘惑に負けていく人々の弱さ、金のためではなく正義のためだと自己弁護する卑小さ、家族も父を見捨てる薄情さ、あるいは大金持ちになびく事大主義。そうみると、井上ひさしの「11匹のネコ」の最後に殺されるにゃん太郎の悲劇に通じる。また、富豪の女が、義足と義手の傷だらけの存在であるところに、強者と弱者の、健常者と障害者の、加害者と被害者の両義性を見ることもできる。
わたしがいちばんあざやかに感じたのは、富豪の女性のかつての恋人への愛。それはヨカナーンの首を望んだサロメの愛に通じる。
終始一貫、秋山菜津子のド派手なキャラクターに圧倒された。「殺されたーって死なないわ/殺されたーって、殺されたーって、し、な、な、い、わ」のテーマソングは、秋山さんが作ったというから驚き。富豪の従者たちのシンボルカラー黄色がド派手。芝居が進むにつれ、町民の服装もどんどん黄色に変わっていく演出も分かりやすかった。新劇から若手劇団まで老若取り混ぜたアンサンブルも、なかなか見られないだけに興味深かった。 3時間(1・2幕:90分 休憩:15分 3幕:75分).