パスキュア 公演情報 GROUP THEATRE「パスキュア」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い…お薦め。
    10年振りに再開した2人の追想を通して描かれる人生の応援讃歌。その「再生と希望の物語」は、今を生きる人々へ勇気をあたえるかのよう。

    説明にあった、リーマンショックの経済的混乱や東日本大震災といった喪失感を背景にしているようだが、敢えて劇中では その状況を色濃く描くことはしない。それによって時代に関係なく普遍的な課題・問題として捉えることが出来る。そして、むしろ 今のコロナ禍を意識したように思える。
    底流にあるのは、いつの時代にも付きまとう様々な困難や苦悩に対する激励と労わり。「モラトリアムに陥ってしまったすべての『心』を優しく包む」という謳い文句は肯ける。

    物語は分かり易い設定で、テンポ良く展開していく。しかも方言で紡ぐため、何となく温かみと親しみをおぼえる庶民感覚。そして、中村有里さんのSaxoPhoneの演奏は勿論、劇中の演出(役割)としても見事な効果を発揮していた。
    さて、説明にある とある墓地、そこには登場しない人の墓が…。
    (上演時間1時間50分 途中休憩なし)22.6.2追記

    ネタバレBOX

    客席はコの字の囲みで、中央のスペースが舞台になる。客席がない所に舞台転換によって搬入させる小道具が置かれている。冒頭は塩屋家之墓(仏花)と坂本家之墓(墓前に小石) その向かいに小さい鈴木家之墓とベンチ。ただ、塩屋という人物は登場しないが、この人物こそ物語の登場人物の集合体というか凝縮した人物を表しているようだ。当日パンフに「本公演を、亡き塩屋俊監督に捧げます」とあり、その経歴こそが登場人物に背負わせた内容であろう。

    冒頭シーンは、10年前 病院で出会った男女2人の思い出話から始まる。場面は転換し可動式のベットや吸入器を搬入し病室内を作りだす。4人部屋で既に3人がベットを使用している。この場面転換時に、中村さんがSaxoPhoneを演奏し、観客の気を逸らせない。薄暗い中での場転換作業、その最中 舞台真ん中でスポットライトを浴び演奏する姿は凛々しくカッコいい。しかも転換後、病室内の患者から「うるさい!外で吹け」といった罵声を浴びせられ劇中に取り込む巧さ。そそくさと退場する姿がまた愛らしく、演奏時とのギャップに驚かされる。

    3人…肝臓を患っている、石材店を営む社長の坂本(梶原涼晴サン)、腫瘍で余命数か月の平野(山本龍平サン)、全身火傷の鈴木(北見翔サン)で、それぞれ事情を抱えて入院している。そこに右腕を骨折した大学(医学部)受験生・小出(林佑太郎サン)が入院してくる。命に係わる患者と複雑骨折だが命に別状ない患者が同室になる違和感、実はこの4人で少しづつ塩屋氏の人物像を描いているよう。笑いと涙で感情を揺さぶり、熱い思いで痺れさす。

    坂本は、事業に失敗し従業員の行く末と当面の暮らしを心配し、各所に電話をかけまくる。そして自分の死を早め、生命保険金で補おうと目論む。平野は、余命数か月のうちにアルプス山脈に属するマッターホルンに登頂したい。亡き母の思いも重ね、夢・希望を追う。この2人、表面的には言い争っているが、実はお互いを心配している。鈴木は消防士、自分の父を火事で亡くし、その想いが他人の子供の命を助けるために火中へ飛び込む。小出は、右(利き)腕が使えないため数日後に迫った大学受験を諦める、そんな自暴自棄な態度に周りの患者が励ます。また別室の女性患者・山田(岩崎紗也加サン)は、乳がんに侵され手術することを逡巡しているが、平野との愛を確かめて決心する。冒頭の2人の男女は、10年後の小出と山田が今も元気に生きている。が、その小出が、また今の仕事や生き様に…。

    塩屋氏は、50歳代で急逝した映画人・演劇人。1本だけ彼の映画を観たことがある。当日パンフに「環境なんてどうだっていい。芝居さえ良ければ。」とは彼が俳優に遺してくれた言葉だとある。全編、彼の郷里である大分弁、親しみのある言葉(台詞)は胸にグッとくる。彼の個人事務所は破産、東北公演の最中の突然死、しかし後進の育成に力を注ぐ夢と希望を抱き続ける、は登場人物達そのもの。ちなみに彼は、文学部教育学科卒である。

    キャストの演技バランスはよく、看護師(伊織サン)は初舞台だが手堅く演じ、研修生(甲斐直人サン)はそそっかしい仕草から成長していく様が見える。すべてのキャストに、手遅れにならない人々どころか、真摯で熱量ある見事な演技が観えた。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/06/01 17:50

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