エル・スール~わが心の博多、そして西鉄ライオンズ~ 公演情報 トム・プロジェクト「エル・スール~わが心の博多、そして西鉄ライオンズ~」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    登場人物がすべて愛おしい
    人がいて(人が生活して)町がある。
    町の記憶、町の匂い。
    地に足つけて生きる人たち。

    作・演出の東節炸裂とでも言おうか、もちろん桟敷童子とは違うテイストだが、根底に流れる、人、生命、絆、町(共同体)への強烈な想いは同じだ。

    かなりベタなつくりかもしれないが、登場する人々がすべて愛おしい。
    どんな仕事をしていても、チンピラであっても、人が人であること、生きていることが美しいと思える。

    美しさの中には、強さと弱さと哀しさが同居しているのだ。

    ネタバレBOX

    住む人に愛された博多という町と、町の人に愛された西鉄ライオンズ、なくなってしまっても、あるいは、散り散りになってしまっても、それへの人々の想いは、消えてしまうことはない。
    たとえ、町を離れても、心の中にはその想いがある。主人公の中には「エル・スール」(南へ)という形で強く刻まれている。

    町はどうしても変わっていく。その善し悪しは別にして。
    私自身が住んでいた町は、まさに高度成長期の頃から日々大きく変化していった。それは、前がどんな様子だったかを忘れてしまうほどだ。
    町が変わることは、もう諦めている。そんなものなんだと。でも、町に対する郷愁や思い入れは多少はあるつもりだ。

    とはいえ、私の想いは、この舞台に登場する人たちほどではないだろう。というか、作・演出の東さんの、町に対する想いの強さはどうだろう。

    東さん作の「風街」も九州の北部が舞台だったし、桟敷童子の「ふうふうの神様」もやはり九州が舞台、そのこだわりはものすごいと思う。
    東京に出て来て、芝居をやっている東さん自身の想いも、やはり「エル・スール」(南へ)なのだろう。それが、たとえ九州が舞台でないときも、色濃く出ているように感じる。

    さらに、昭和30〜40年あたりへのこだわり、映画へのこだわりも強い。先日桟敷童子の「汚れなき悪戯」の元となった映画がまたこの舞台で顔を出した。なにしろ、「エメ・スール」というタイトルのスペイン語は、「汚れなき悪戯」がスペイン映画だったからなのだ。

    それぞれの人物の描き方がいい。台詞の端々にその人の生きてきた道が浮かび上がる。単なる説明にならないところは当然としても、その塩梅がとてもいいのだ。たかお少年の純粋さが人を惹き付けるという構造もうまい。誰もに好かれ、誰もを好きな少年時代。

    ラストに、その後彼らはどうなったのかと後日談をくどくど見せない潔さがカッコいい。それぞれがどう生きたのかを描くことができたのに、それを観客の心の中にゆだねてしまう潔さ。見事だと思う。

    また、今回の舞台は、メインは5名の俳優が演じているのだが、どの役者もうまいと思った。そこにその人が生きているようだ。
    たかお鷹さんにも、高橋由美子さんにも、松金よね子さんにも、有坂来瞳さんにも、清水伸さんにも、登場人物のすべてに、生きる強さ、生命の強さと、同時に人の弱さや哀しさも感じた。

    たかおさんは、もちろん、どう見ても小学生には見えない姿なのに、なんとなく老けた小学生に見えてしまうというのが見事だ。60歳を過ぎた現在を演じるときに、わずかながら口調が変わるだけで、その違いをはっきりさせたのには舌を巻いた。

    笑いも交えながらだが、後半は、涙なしでは観ることができなかった。

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    2009/08/27 05:21

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  • コメントありがとうござます。

    博多駅の移動のために、整理される駅前の長屋に住む小学生が主人公で、たかお鷹さんがそのままの姿で演じてました(冒頭とラストは現在の年を取った本人を演じています)。彼を取り巻くのは、欲求不満の元気だけが取り柄のおばさん、仕事もせずにぶらぶらしているような兄貴分、たかお少年とふとしたことで仲良くなる、ヒロポン漬けの赤線の女、一緒に映画を観に行くことになる朝鮮人の少女という登場人物たちでした。西鉄ライオンズの絶頂期と彼らの生きている姿をダブらせ、すべての登場人物が優しくて切なく、私にとってはとてもいい舞台だったと思います。

    逆に桟敷童子の初企画公演のほうは行けませんてしたので、私はtetorapackの「観てきた」を読んで、行きたかったなあという気持ちを強くさせました

    2009/09/03 05:59

    アキラさん
    仕事が超多忙で、やっとゆっくりコメント拝見しました。
    タイトルで分かってはいたけど、やはり東さんの「郷愁と、そこに暮らす人間たち」が中心軸でしたか。
    私は観ることはできなかったけど、アキラさんの丁寧なコメントを読んで、わずかばらりは東ワールドに「浸る」ことができたような気分になれました。
    サンクス!

    2009/08/31 22:47

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