つぎはぎ 公演情報 劇団水中ランナー「つぎはぎ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い…お薦め。
    普通の家族ではない人々が、普通以上の絆で結ばれた“つぎはぎ”物語。どうして家族ではない人々がここまで親密になれるのか、そして相手を思いやることが出来るのか、その人間関係を実に上手く描く(作・演出:堀之内良太氏)。

    環境や状況、もしくは範囲といったほうが分かり易いが、広げないことで より緊密さを増した関係性や情況を描き出す。少し謎めいた疑問が徐々に明らかになる。その事実を受け入れざるを得ない苦悩が、観客の感情を揺さぶる。何となく違和感ある登場シーン、それがラストに明らかになる展開の巧さ。見事だ!
    (上演時間1時間50分 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台は「ぱっちホーム」という児童養護施設。セットは、室内中央に少し張り出した間仕切り、上手は談話室のようで座卓や籐椅子、奥に整理箱、下手はダイニングでテーブル・椅子そして冷蔵庫等を置き生活感を漂わす。上手・下手を行き来して、狭い空間に体の動きと心の揺れを観せる。廊下を回るようにして下手奥が玄関に通じている。

    幼少期にこの児童養護施設で育ち、いったんは退所したが、或る事情によって また集まり共同生活を送っている人々の物語。主人公は英治(鐘ケ江佳太サン)、このホームで育ち、当時の園長と養子縁組をして此処にいる。由紀子(虎子サン)と結婚し、妊娠4か月の幸せ真っ最中のはずだが…。仲睦まじく暮らしている家(ホーム)に、昔の仲間を呼び戻し暮らす理由が後々明らかになる。貴美恵(織田あいかサン)という部外者(執筆者)が取材(記録)する方法で、二人の思いや、戻ってきた仲間に事情を聞いていく。それぞれの性格や抱えた事情を情感豊かに描く。

    英治の不治の病(余命数か月)、生まれてくる子の見守り・後見人的役割を仲間に託す。延命治療か、自分の遣り甲斐かといった究極の選択が重く圧し掛かる。この選択を施設育ちで、今医者になっている麻美(悦永舞サン)と議論するシーンが見どころ。その議論を英治と由紀子を別々に観せることで、それぞれの立場の本音を聞かせる巧さ。何が正解か見出せず、ただ思(重)いを言い合うだけの虚しさ哀しさ。

    シングルマザーとして働く女性二人ーえり(坂本憲子サン)と真由(川村美喜サン)が登場するが、交わることはない。途中から 少し違和感を覚えたが、これは時間軸が異なっているため。この時の経過こそが物語の始まりであり現在(ラスト)に繋がる。単に時間という流れの繋がりではなく、仲間との繋がり、命の繋がりという物語のテーマが込められている。一緒に暮らし育ったが本当の家族ではない、そんな“つぎはぎ”家族が愛おしく感じられる。

    英治のプロポーズの言葉「結婚して下さい。あなと家族を大切にします」、果たすことが出来なくなったが、仲間は「我が儘だな。皆を巻き込んで」といった序盤の台詞が利いてくる。ラストシーンの台詞が、英治と仲間の思いを結び付ける。結婚と後見人的な存在から「書類にサイン」の意は、おのずと知れよう。
    たしかに「杉並演劇祭大賞受賞」は肯ける秀作。
    次回公演も楽しみにしております。

    【追記】
    事情があり到着が開演時間ギリギリになる旨、事前に連絡させていただき、当日は10分前になった。それでもスタッフには気持ち良く対応いただいた。感謝します。

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    2022/05/23 07:44

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