リターン THE RETURN 公演情報 ウォーキング・スタッフ「リターン THE RETURN」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    小劇場で、大劇団が手掛けない海外の生きのいい小品に出会うのは嬉しい。既に上演されたこともあるオーストラリアの作品で、初見だった。
    この世の楽園と伝えられる彼の地のパースから出ている郊外電車の終電車に乗り合わせた五人が終着駅につくまで1時間40分の車内だけの一幕劇。伝えられる楽園とは裏腹に荒廃したこの国の一面をのぞかせ、それが世界に広がる普遍性にも通じている。正面と上手に客席のあるB1を生かして、中央舞台スペースに斜めに組んだ座席とつり革だけの終電車に乗り込んでくるのは、刑務所で刑期を終えた男二人組(石田佳央 長村航希)。次の駅で乗り込んでくる女子大生(福永朱梨)、次の駅では太っちょの主婦(星野園美)と陰気な青年(蓮井佑麻)。
    刑務所帰りの男たちが女性の相客に絡んでいく展開は、よくありそうな挿話なのだが、やがて、それがムショ帰りの兄貴分の収監の原因となったジェンダーがらみの犯罪をめぐる青年と兄貴分との対立になっていく。兄貴分は自分の女に手を出した男を半身不随にして収監されたのだが、その被害者は青年の兄で、青年はガールフレンドの女子大生の助けを借りて復讐を試みたのだ。その兄貴分にもジェンダーの秘密がある。主婦が終電車に乗っているのは暴力亭主から逃げ出してきたからだし、弟分の青年はどう生きればいいかわかっていない。
    演出の和田憲明は、もう小劇場の長いキャリアのある演出家で、緩急自在のサスペンスで舞台を進めるのはうまい。押して詰めるだけでなく引く隙間がうまいのだ。かつて見た「死神の精度」なんかホントに冴えていた。今回の舞台で言えば、列車が駅に停まるたびに開閉するドアとか、無機的に流れる次駅のアナウンスの挟み方など、音だけのリアリズムをうまく使って舞台に緊張感を漲らせていく。俳優も、普通こういうプロダクション製作はよく、大劇団から主な役を二三人借りてくるのだが、今回は町場育ちのキャスㇳがそれぞれ期待に応えてそつがない。石田佳央はその素顔が分かって、なるほどと納得させる人間像を作っているし、ラストに残る星野園美は荒涼とした夜明けを体現させていた。
    これからということでは、長村航希、蓮井佑麻、福永朱梨の若手だが、出ずっぱりのこういう舞台はきっとこれからの役に立つだろう。小劇場ならではの舞台だが、もう少し大きい二百までの劇場でもさらに再演できるのではないか。満席だったし。

    0

    2022/05/19 16:25

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大