実演鑑賞
満足度★★★★
五年前に、乱歩の知られざる悪女・お勢が舞台に颯爽と登場した。お勢を軸におどろおどろしい乱歩の恐怖と幻想の物語作品が、百年後の現代の舞台になった。好評だった「お勢登場」を受けた第二シリーズの「お勢断行」は、ゲネプロが終わった日にコロナで上演中止が決まった。それから二年ようやくの幕開きである。主演は第一作のお勢が黒木華から倉科カナに変り、原作をとどめて短編がコラージュされていた脚本は、お勢を主人公とする長編のオリジナル悪女物になった。新作と言ってもいい。
まず、その功罪。物語は資産家の松成家の相続争い.筋立ては、当主を精神病という事にして蟄居させ、後妻(大空ゆうひ)とその資産を狙う代議士(梶原善)と医師(正名僕蔵)が横取りしようとたくらむ。その三悪人を操ろうとするお勢(倉科カナ)と千歳の娘(福本莉子)。彼らの手先となる女中(江口紀子)、その縁者の電気工事の若者(粕谷吉洋)、コメディリリーフ的に出てくる当主の姉(池谷のぶえ)。悪人揃いの足の引っ張り合いである。良い方から行くと、かなり複雑に入り組んだ利害関係、人間関係がはじめは時間経過も前後して分かりにくいのだが、やがて、スルスルと納得でき、それぞれのキャラクターもよく見えてくる。この作りのうまさは大したもので、倉持裕、いつの間にか大劇場が開くくらいにうまくなっている。
しかし、構成はうまくても、登場人物の悪のキャラは、それぞれに見せ場はあるものの、大したことはない。一口で言えば、悪人としても小物で、小物なりの面白さも薄い。だから、ドラマの進行は、面白く見られるものの薄味である。そこが、乱歩原案と謳っていながら乱歩の毒から離れてしまった残念なところだ。前面に大きなパネルの障子を八枚それをスライドさせて戦前の日本家屋の雰囲気を出したり、女優たちの和服のデザインが今ふうなのに決まっていたり、音楽の斎藤ネコの歌を福本莉子が歌ったり、といろいろ洒落てはいるのだが、これで乱歩?と言う感じである。百年前の作品だから、現代の舞台で上演するにはそれなりの工夫が必要だが、どこか乱歩を料理する方向性が決まっていない。それは、例えば、乱歩の世界とはそぐわない喜劇的キャラクターやギャグを取り入れているところにも表れている。その戦前の社会の乱歩趣味が生きていないと、折角のお勢という新キャラクターも生きてこない
で、キャステキングになるが、倉科カナがまずいということでは全くないのだが、前の黒木華が良すぎた.虫も殺さぬ顔の普通の女が、平然と夫殺しに走るところがガラにもはまって絶妙だった。倉科は損をしたのだが、お勢を毎回変えるという趣向もある。さらに言えば、この本なら、もっと商業演劇的配役でもよかったような気がする。
世田パブは昼間から満席。こういうシリーズ悪女物は企画としてもユニークで面白いし、ジャニタレ頼みでない興行もいいのだから、あまり凝りすぎずにぜひ続けてもらいたい。