雨の一瞬前(再演) 公演情報 ユニークポイント「雨の一瞬前(再演)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    人が人と出会うには苦しい時代
    偶然に人と人とが出会う。
    始めて会う人たち、数十年ぶりに会う人。

    出会った人たちのタイミングは、「時代」という理由のために、決して最良ではなかった。
    なんでもない時代ならば、なんでもない出会いだったかもしれない。

    人と人が出会って、何かが生まれ、別れていく。
    別れてしまえば、二度と会えない。
    しかし、それぞれの中に何かが残っていった。
    それは、強く残ったものであった。

    舞台ならではの、人がそこにいる、という実感。

    とてもいいテーマと設定だと感じた。

    ただし、どうも今ひとつ、のれない自分がいた。

    ネタバレBOX

    のれないのは、登場人物の行動に対する動機が、観ている側(私)に迫ってこないからだ。

    例えば、旅館の女主人がなぜ、そこまであからさまに戦争を悪く言うのか、そして、なぜそこまでして旅館を再開させたいのかが、わからない。

    戦争によって、普段の生活が奪われてしまったことを憎んでいるのはわかるし、両親の残してくれた旅館を大切に思っているのもよくわかる。

    しかし、時代背景から言うと、その想いが強すぎはしないか、ということだ。
    20年ぶりに会った友人の心を傷つけてしまうほど、戦争を嫌だという気持ちがあったり、逃げてきた朝鮮人たちを使ってまで旅館を再開したいというのは、常軌を逸しているとしか思えないのだ。

    もちろん、本当に戦争を嫌だと思っている人は大勢いたと思うのだが、相手がどんな考えなのかもわからないのに(なにしろ20年ぶりに会うのだから)、自分の主張を述べたり、警察に追われている朝鮮人たちを匿うだけでなく、彼らを使って旅館を再開させようとする行動は、簡単には納得できない。

    たとえどんなに大きな旅館であったとしても、姉妹2人住まいの家に、見知らぬ男性2人がいて、仕事をしているのは近所でもわかるだろうし(薪割りまでさせているのだから)。
    そういう行動をとるのはなぜなのか、匿うことを決意したのはなぜなのか、ということをもっときちんと観ている側に納得させてほしかった。
    困っている人がいたから助けた、ではすまない時代と設定だと思うからだ。

    女主人の妹の犯す殺人もそうだ。姉を助けるために果物ナイフが都合良く置いてあったから、刺してしまいました、では納得できない。
    姉を助けたい一心はわかるのだが、普通に暮らしている女性が、たとえ戦時下という状況であったとしても、めった刺しまでするだろうか? たとえ、それがしょっちゅう家に押し掛けてくる嫌な相手であったとしてもだ。
    普通の女性が、殺人までしなくてはならない理由がわからない。
    そもそも、妹に殺人をさせる物語の意図もよくわからない。

    そして、朝鮮人を匿っていることを警察に密告する女教師の行動もわからない。
    20年ぶりとは言え、かつての友人が見なかったことにしてくれ、とお願いしているにもかかわらず、簡単に密告してしまう。
    友人として、匿っている理由ぐらいは訊ねるのではないだろうか。普通はその上で、密告ではなく、まずは説得しようとするのではないだろうか。

    30後半の年齢で、まさか戦場に行かされると思っていなかった夫のことを、まるで侮辱されたように感じたから、あるいは、教師という職業柄させた行動なのだろうが、それでもなぜそうしたのかを理解させてほしかった。言葉では「いろいろ考えたが」とは言っていたが、それは伝わってきてないと思うのだ。
    女教師がスカートだったのもちょっと気になったし。

    そして、戦時中の緊迫感をなぜ感じないのだろうと考えてみたが、それは、空襲があるにもかかわらず、灯火管制を一切しておらず、電灯が明々と点いていることだ。せめて、それぐらいはするべきだったのではないだろうか。女主人の主義主張はともかくとして。

    同居しながらの交流は、歌や言葉を教えたりというシーンで少しは垣間見られたのだが、もう少しそこのところが欲しかったと思う。

    いろいろ書いてみたが、そういう意味では見入っていたのだと思う。だからこそ、いろいろと丁寧に描いてほしかったのだ。
    「物語」の「ストーリー」ではなく、「深さ」を感じたかった。

    3月10日の大空襲がラストの山場になるのだが、たぶん旅館のある本郷界隈は焼け残ったのであろう。あえて残った本郷を舞台にしたのは、なにもかも焼けて灰になってしまうのではないように、すべての罪も消えてなくなってしまってはならないのだ、というメッセージであるととらえた。
    つまり「戦争はすべて奪い去ってしまう」のと同時に、重いモノを確実に残していく。そしてそれを消し去ることはできない。

    なんでもない普通の平和な日に出会ったのならば(戦争なければ出会わなかったということもあるが)、こんな不幸なことは起きなかっただろうし、妹に殺されてしまった男も戦争に行ったことで人が変わってしまい、命を縮めてしまった。

    日本人に憎しみを強く抱いている、チョン・ヨンサンが、ラストで「日本の歌を覚えたい」と言った台詞は、救いであると思った。

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    2009/08/16 05:09

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