『焔 〜おとなのおんなはどこへゆく〜』 公演情報 下北澤姉妹社 「『焔 〜おとなのおんなはどこへゆく〜』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    説明では「自分が選んだ人生を正当化し合い、マウントを取り合う女性たち」と 煽るような謳い文句であったが、それほど辛辣な印象ではなかった。高校ダンス部で仲が良かった女性3人が、意識もしくは無意識に発した言葉に毒が含まれ(マイクロ アグレッションか)、敏感に反応してしまう可笑しさ 悲しさといった機微を描く。

    少しネタバレだが、物語は2018年12月30日夕刻、都心の高級タワーマンションという設定が絶妙だ。勿論、コロナ禍になる前であり、観客はこの3年半ほどの間に起こる出来事は知っている。既知感をもって眺めた物語は、色々な不平不満を漏らす人々と政治・経済といった時事ネタを絶妙にマッチさせ、考えさせる内容になっているようだが…。端的に言えば「人間ドラマ」と「社会ドラマ」を融合させたとも思えるが、実際は慣れ親しんだ人たちの戯言のよう。親しいが故に我が身と比べてしまう”幸福度”、それを身近な問題と絡ませることによって、今(2022年5月)から過去を俯瞰し、自ずと社会的な関心事へ目を向けさせる巧みさ。

    都会(コンクリート)ジャングルと言われて久しい、いや死語かもしれない。物語が地方であったなら、地域社会(=世間)という、もっと厳しい現実に向き合うことになるかも…。敢えて 設定は都心にしていることから、もう少し身近な生活と関連時事(エビデンス的)に絞り込むと、もっと観客の関心が向くだろう。繰り返しになるが、過去の観点で観せたところに この公演の魅力がある。
    (上演時間1時間35分) 

    ネタバレBOX

    上演前、プロジェクターで舞台壁に2018年から2022年までの社会的な出来事を時系列に映す。それによって舞台の日・場所が、2018年12月30日、東京都江東区・辰巳にある高級タワーマンションパーティールームということが分かる。上演前の情報だけだと不親切かも知れない。舞台美術は、上手に横長ソファ、中央に硝子の丸テーブルや椅子、下手は窓にカーテン、段差ある腰掛スペース。全体的に高級感溢れる仕様イメージだ。

    東大卒の精神科医・庄田楓(松岡洋子サン)、高校時代に仲が良かった専業主婦(早大卒)の今井麻子(明樹由佳サン)、2人の後輩で美容師の涼風萌香(みょんふぁサン)の3人が繰り広げる会話(毒舌有り)劇。冒頭、マンションのコンシェルジュ・花岡すみれ(関口秀美サン)が軽いステップで飲み物を運びパーティーが始まる。3人の現況が次々に明らかになる。楓は形成外科医の市川良太(成田浬サン)と事実婚で、このマンションに住んでいる。子供はいない。麻子の夫は、週刊文文の記者・慎一(辻輝猛サン)で高校3年の一人娘・小百合(裕海サン)と、最近このマンションに引っ越して来たばかり。萌香は離婚を繰り返し、今は吉野慧人(関口敦史サン)と都営住宅で同居。子供は男4人。それに市川のクリニックの顧問弁護士・千葉辰徳(高畑裕太サン)が加わる。それぞれの事情が明らかになる中で、子供がいる いない、経済的な格差、職業的な偏見、学歴的な優越・劣等感、そして本音と建前で塗られた隠ぺい事が炙り出される。勿論、外見的なこと=美人か否かも。

    慎一は、有名人のスキャンダルを書いているが、本当は政治的なスクープを狙っている。「政治」とは、といった大上段に振りかぶり「国民から集めた税金の使い途を決めること。しかし国民は一番重要なことに関心を示さない」と憤る。会話の中で、小百合の大学進学に絡めて、日本の奨学金制度は給付型で返還義務がある。一方、コロナ禍でキャリア官僚による、支援給付金や持続化給付金の詐欺事件があったのは周知のこと。せっかく国民と政治の接点ある事を生かせていない。身近な話題を出しながら、一般論的な取っ付き難い話へ誘い込んでしまい勿体ない。

    また、慧人はウーバーイーツと保育士の仕事を掛け持ち。ウーバーイーツはコロナ禍になって見直された仕事、一方 保育士は責任ある仕事(興味深い絵本の紹介もあり)だが、低賃金といった問題を提示.。コロナ禍による状況変化と潜在していた問題の顕在化を示す。
    女性の子沢山=仕事(キャリア)の制限・制約や経済的な貧困へ追いやられる不満。また将来的なこと、先々にも関わらず娘の伴侶は、性格だけでなく経済力がある人、といった本音がチラホラ。が、もっと女性同士の、それも高校時代から仲の良かった同年代のリアルな会話を聞いてみたかった。子供を産まない、といった選択肢は都会らしい印象。もっと言えば地方で子供がいない場合は、世間体を心配するが…(偏見かも)。

    面白く思ったのは、今の既知感ある観客に、2018年当時 身近な生活に潜んでいた問題意識を見せること。だからあの時にこうして「いたら」「いれば」といった問題提起、それは2022年以降 我々の問題意識の醸成へ繋がると思いたいが…。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/05/14 11:32

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