静寂に火を灯す 公演情報 演劇プロデュース『螺旋階段』「静寂に火を灯す」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「(有)みちのく製菓店」のありふれた日常、ただ長男が自宅に引き籠っていること以外は、何の変哲もない。粗筋にある、長男が自殺して、残された家族や身近な人々が思いを積み上げることで、”一人の男の人生がわかってくる”とあるが…。

    自分が観た回には、相当 感受性が豊かな方(自席の真後ろ)がおられ、途中までは笑っていたのに、あるシーン以降は感極まって嗚咽から号泣、そして途中退席された。子に先立たれた親は辛い。その方の事情は分からないが、機微に触れる事があったのだろう。

    物語は、確かに泣き笑いという感情を揺さぶるが、肝心の男の人生がシッカリ浮かび上がらないのが もどかしい。
    (上演時間1時間45分)

    ネタバレBOX

    舞台セットは、見事な「(有)みちのく製菓店」事務所内。上手が事務所出入り口、絨毯に応接セット、下手は事務机が並ぶ。窓から陽が射し・月明り。正面壁には月間予定表や「海猫サブレ」の張り紙。神棚、キャビネ、コピー機など、本当にここで商売をしているかのようだ。ちなみに、「みちのく製菓店」や登場家族の名字が「東北」であるが、予定表に小田原市役所との打ち合わせとあることから、店は神奈川県内にあるらしい。衣装(事務服)には「みちのく製菓」と裁縫を施し、小道具にはガラケーを利用する拘り。また照明は、動静や陰(影)陽を表す階調は見事!全体的に観せようとする工夫が良い。
    舞台は 2000年代初頭で、店頭販売から通信販売とネット販売に業務形態を切り替えたとある。約20年後、現在のコロナ禍を重ねる設定のよう。

    物語は、深夜 自殺した東北智明(脚本・演出:緑慎一郎サン)と妹(次女)・千夏(西田好美サン)の謎めいた会話から始まる。智明はほとんど登場しない。逆に家族や従業員、出入り業者の証言らしきもので智明の人物像を立ち上げる、といった展開である。物語は、自殺そして四十九日の法要を境に、コミカルからシリアスへ劇風も一変する。

    引き籠りになった原因は、妹(長女)・彩夏(木村衣織サン)を暴漢から助ける際、相手にケガを負わせ刑事事件になったため。小・中学校時代の友人が彩夏の夫・篠崎純也(根本健サン)になったり、従業員・稲田和人(中根道治サン)として働いており、彼らによれば学生時代は”普通”の少年だったらしい。エピソードらしいことは、純也が車を買って3人でドライブした時、事故を起こした際の穏やかな対応くらい。自殺するまで追い詰められた心情が浮かび上がらない。智明本人にしか分からない事かも知れないが、芝居としては、家族や身近な人々との関わり・・・回想シーンを挿入するなどして「35歳の人生」をもう少し描き込んで印象付けてほしかった。

    製菓店での日常、両親のうち母・道子(田代真佐美サン)が社長、父・将人(露木幹也サン)は家事といった裏方、従業員・犬飼香織(岡本みゆきサン)の滋味ある見方、出入り業者・東風 晋(水野琢磨サン)の とぼけた雰囲気-コメディ・リリーフの役回りが店の活気ある雰囲気を出している。”海猫”という名の人物が事件を起こし、その煽りで「海猫サブレ」の売り上げに影響が出たという波風を立てるが、ある工夫をして乗り切る。家庭内や事務所内の見える「日常の生活」と見えない問題「引き籠り」の融合した舞台化を試みているようだが、うまく噛み合っていないのが残念。

    家族にしても、智明に夫々が抱いている思いは違う。そして智明を知らない若い従業員・彩音祐治(高杉駿サン)はどうか。母や父の思い、胸の内がなかなか見えない。彩夏と千夏の智明に対する思いが、見どころであろうか。千夏は、彩夏の事件が引き籠りの原因であり、結婚し家から離れた処から傍観者的に見ていることに腹を立てている。また千夏は細々とした暮らし向きの面倒をみており、自分が一番心配しているという自負がある。逆に、彩夏はそれが態とらしいと思っている。心の内にある「思い」の強さは比較できないが、それを敢えて表現しようとしている。それが、ラスト 姉の妊娠に対する祝福と憤りという相反する感情が顕になり、無言で叩いた机の音が…。
    次回公演を楽しみにしております。

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    2022/05/06 18:05

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