甘い手 公演情報 万能グローブ ガラパゴスダイナモス「甘い手」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    「学校」という社会の二面性

     福岡市(と思われる)の高校を舞台に学生と教員の悲喜こもごもを描いた群像劇である。全編博多弁の台詞は活力がみなぎっていた。

    ネタバレBOX

     高校2年の演劇部員・野村世界(荒木宏志)は1週間後に控えた文化祭で、隣のクラスが急遽上演することにした人形劇の台本を書いている。世界は隣のクラスの木内早苗(脇野紗衣)に思いを寄せているが、学内一の情報通である熊野宗助(友田宗大)から、早苗は先生と付き合っているという噂を耳にして心中穏やかではない。他方体育会系でツッパった部員の多いサッカー部の部長・古賀純白(古賀駿作)は、最近付き合いの悪い副部長の北山ヒロ(西山明宏)と大きな喧嘩を起こしてしまう。ヒロは皆に言えない悩みを抱えていたのだ。生徒指導室で二人をきつく注意した英語教師の館山絵リ咲(横山祐香里)は学生たちから煙たがられているが、彼女のくだけた一面は駄菓子屋の店主日ノ出まゆ(杉山英美)をはじめ限られた人しか知らない。館山は同僚の川崎一穂(山﨑瑞穂)と一緒に文化祭で踊るダンスの振付を3年の森古田緑子(悠乃)から教わっていた。緑子はクールビューティーぶりで井端芽吹(柴田伊吹)をはじめ女子学生から慕われているが、実は緑子にも皆の前では伏せている秘密があった。

     本作の主題は人間の二面性である。自分のキャラ設定に思い悩む多感な高校時代の葛藤が、コメディタッチで描かれていた点に好感を持った。また現実世界では葛藤があるもののネット空間では自由であるという描き方が現代的であると感じた。さらに学生だけでなく教員の二面性も描いたことで「学校」という社会の二面性が浮き彫りになったように思う。

     ネタの入れ方もうまい。自宅で飼っているウサギの体調が思わしくないため、不登校の妹・小枝(石井実可子)と一緒に献身的に看病しているヒロは、「マイメロディ」のアニメを観てウサギを飼い始めたことが恥ずかしいと言っていたり、その「マイメロディ」をきっかけにサッカー部員と館山が邂逅するという流れも周到に計算されていると感じた。また急遽人形劇を上演することを決めた教員の尾崎豊(椎木樹人)のあだ名が、ハムスターが回り車をひとりで回転している様子から「ハム」と名付けたなどうまいものである。

     私が疑問に感じたのは高校生を演じた俳優の自意識の所在である。登場人物の二面性を際立たせやがて底を割る作劇であるため、実年齢よりも若い配役が劇のリアリティとは異なるリアリティを生み出したため混乱を覚えた。たとえば世界が早苗と会う前にスキンケアをしたいから早く帰りたいと嘆く台詞は面白かったが、演じた荒木宏志にその台詞を言わせると劇の内容とは異なる意味が生じるように感じた。俳優と役柄の距離感は難しいところだが、この困難さを自嘲したり喝破するような自己批評の台詞や設定があってもよかったのではないか。他方で教員を演じていた俳優にその違和感はない。椎木樹人の人はいいが空気が読めない熱血教師ぶり、横山祐香里のエキセントリックな芝居が特に印象的であった。

     また文化祭の大どんでん返しは本作のハイライトであるが、おおよそネタが割れているために予想範囲内で終わってしまった点が残念である。カラオケでサッカー部員たちと館山が遭遇するところや、オタクぶり全開の緑子など部分では面白い要素が、文化祭へと至る大きなうねりに繋がっていればなおよかったのではないだろうか。

     本作は失恋し人形劇も失敗に終わった世界の新たな門出と、じつはちいさな頃から世界に思いを寄せていた隣のクラスの羽美みさこ(野間銀智)との展開を示唆する場面で幕を閉じる。このラストは腑に落ちるものの、欲を言えば群像劇で描いた「学校」という社会から見えてくること、全体を貫くメッセージを感じ取りたいと思った。

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    2022/05/03 13:07

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