マがあく 公演情報 シラカン「マがあく」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★

    鑑賞日2022/03/30 (水)

    部屋をめぐる「ちょっと、変」な不条理劇

     ドミノが四方を囲んだ空間で、黄色いシャツを着た男が横になっている。どこからともなく人の声がする。「風呂が沸きました」。男はやおら起きあがり部屋の奥に姿を消す。客席後方から登場したスーツ姿の男は客席に向かい「ご来店ありがとうございます」と観劇上の注意を呼びかける。こうして『マがあく』は「ちょっと、変」な空気感を醸し出しながら幕を開ける。

    ネタバレBOX


     蓑田空(岩田里都)は知り合いの藤家ゆり(村上さくら)を連れて契約したばかりだという部屋を訪れ、ビニールシートを広げてお茶会をはじめる。そこに不動産営業の勝村忠(大橋悠太)が内見を希望する森山奈央(高下七海)を連れて現れる。じつは空はこの部屋を契約しておらず、勝手に鍵を持ち出し入室していたのだ。当然勝村は抗議し藤家と奈央は戸惑うものの、空は「ここは私の部屋だ」とふてぶてしく主張する。騒動が大きくなり隣室から大家の丹野武蔵(神屋セブン)が諌めにくるが、なぜか4人に言いくるめられてしまう。

     しまいには風呂を終えた冒頭の男・太伏大器(干川耕平)が裸で出現、「ここは誰の部屋でもないから所有した」とおかしな主張をしてさらに場が混乱する。最終的にはなんと部屋が「(扉は)開かないよ」などと話しだし、この部屋から誰も出られなくなりーー作・演出の西岳はコロナ禍で外に出られなくなった体験をもとにこの悲喜劇を創作したという。

     私が面白いと感じたのは上述した幕開きを含めた空間設定や俳優たちの醸し出す空気の独特さである。「ガチャ」「ガラガラ」など扉を開ける音響効果に人間の声を当てていたり、客席後方から出入りする役者がまるでアヒルのように体を小さくしながら入退場していたり、部屋から出られない登場人物たちが暇を潰すために円陣を組みゲームをする場面の息のあった具合など、この劇団ならではの雰囲気を徹底させた点が面白いと感じた。

     一方で公権力に頼めばある程度解決しそうな事件を展開させる仕掛けが少ないため(「騒動になるから警察は呼びたくないでしょう」と勝村を諭す台詞はあったが)、設定そのものに違和感を覚えた。結果、私は劇のリアリティに馴染めず、場面が進むごとに台詞が空疎に響いてきた。当日パンフレットのあらすじに「部屋と悪をめぐるハートフルバイオレンスタイム」をあったため、ルイス・ブニュエル 『皆殺しの天使』ばりのものを期待した者としては肩透かしを食らった気持ちになった。

     また、不条理の象徴たる部屋の存在も含め、本作の登場人物たちは決定的な対決行為はせず、なんだかんだで仲がいい。コロナ禍があぶり出した人命にかかわる不穏さ、人間のダークな一面を感じるくだりがほしいと思った。

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    2022/04/23 17:14

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