ひび割れの鼓動-hidden world code- 公演情報 OrganWorks「ひび割れの鼓動-hidden world code-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    異なる才能が問う俳優・ダンサー論

    ネタバレBOX


     大きな白布で覆われた正方形に近い舞台は客席に向かい角が向き、背景には10本の棒が配置されている。舞台奥から布をかぶった演者たちが現れ、ゆったりと歩き回りどこかへと消えていく。不可思議な空間から女(佐藤真弓)と男(薬丸翔)が出てきて要領を得ない会話を始める。いわく「私たちはいま、こうして歩いている、普通に。いまさらよちよち歩きはできない」「お酒でも飲まない限り」「そう、お酒でも飲まない限り。よちよち歩きだった頃を覚えている?」「シラフで生きていくにはきびしい世の中になってしまった」。

     二人は、立ったまま不規則に手足を動かしては止める動作を繰り返すもの(川合ロン、東海林靖志、高橋真帆、平原慎太郎、町田妙子、渡辺はるか)の回りを歩いている。やがて舞台上にいる全員で円陣を組み、あたかも民族舞踊のように軽やかに舞いながら手を叩いてリズムを刻み始める。これは主神デュオニソスに捧げられた合唱抒情詩「デュドゥランボス」。現代に諦観する言葉と古代への憧憬を表すかのような動きを交えた重層的な幕開けは、古代ギリシャ劇に着想を得たという『ひび割れの鼓動』の作品世界を端的に示した。

     本作は振付・構成・演出の平原慎太郎とテキスト・ドラマターグの前川知大の共同作業によって生まれた。第一の魅力はコンテンポラリーダンス界と現代演劇界の才能が生み出す独特な作品世界である。稽古はまず平原の振付をもとにダンサーたちと動きを決め、それを確認した前川がテキストを書き、それをもとに新たな場面を創作するという流れで進められたという(3月26日夜公演のアフタートークより)。OrganWorksの先鋭的かつ静謐な作品世界と平易な言葉で超現実を描く前川の劇作が、古代ギリシャ劇という要でうまく合わさったものだと感心した。

     先述の通り本作では俳優とダンサーが同じ舞台に上がっている。そのため互いの方法論の差異が浮かびあがってきたところもまた興味深いと感じた。正確だが無機的な印象のするダンサーの身体に対し、運動能力では劣るものの持ち味で優れているのが俳優の身体だということがよく分かった。台詞を伝えるための俳優の発声はダンサーたちが時折発する唸り声とは明らかに異質なものであった。俳優とダンサーがもう少し大胆に絡んだり、ダンサーが積極的に台詞を発したり、俳優が踊ったりしても面白いかもとは思ったが、互いの領域に対する敬意には好感を持った。

     全6章で構成される本作では、冒頭のいずこかを歩き回る男女の対話や、「彼はボクです」とドッペルゲンガーを見た男の告白、死者を感じる女が「この世界は死にあふれているが、死人は口なし」とランプ片手に闇を彷徨する様子などを経て、冒頭のデュドゥランボスへと回帰する。中盤、舞台下で転げ回るようにして回転するダンサーのムーブメントには手に汗握った。

     個々には面白い場面はあったし目論見は興味深いが、観終えたあと「私はいまなにを観たのか、ダンスか、それとも演劇か」とポカンとした気持ちになった。とはいえ平原が『HOMO』で描いた「人類最後の日」のようなスケールの大きさを感じる歴史観に満足を覚えた。

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    2022/04/23 17:12

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