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オロイカソング
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理性的な変人たち「
オロイカソング
」の観てきた!クチコミとコメント
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Yuichi Fukazawa(71)
実演鑑賞
満足度
★★★★
鑑賞日
2022/03/25 (金)
三世代の女性が男性中心社会につきつけるもの
ネタバレBOX
「根っこから切り離されているのにしぶとく生き延びて、ゆっくり萎びていく…うちの家の匂いです。祖母にも母にも私にも、染みついている匂い」
切り花の匂いが苦手であるという理由について斉木結子(滝沢花野)はこのように語る。植物の品質管理の仕事をしている結子は、失踪した双子の姉・倫子(西岡未央)を探し、倫子の元ルームメイトであるライター兼カメラマンのルーシー・マグナム(万里紗)の元へ来ているのだ。気がつくと二人の回りには花瓶に生けられたたくさんの花々が置かれている。祖母が生きていた頃の実家の思い出をルーシーに語る結子が、我々観客にこれまでの来し方を披露していく。
双子の母の弥生(佐藤千夏)は貿易会社で働きながら、介護施設で働く祖母のオト(梅村綾子)と一緒に子育てをしてきた。弥生は未婚の母であり子どもたちの父親からの認知は得られていない。そして弥生の実母は早逝しているため叔母にあたるオトに女手一人で育てられたという経緯がある。女性だけで支え合ってきた斉木家だが、倫子の失踪の原因たるトラウマティックな出来事が詳らかになるにつれ、ゆっくりとほころびが生じていきーー1970年代から2000年代にかけてたくましく生きる女性たちの姿が、男性中心社会へ鋭い問いをつきつける。
私がまず感心したのは作劇の巧みさである。母子三世代の歴史劇にはリアリティが感じられた。たとえばカレーや味噌汁にウインナーを入れる家庭の習慣が、祖母にとっての「ごちそう」、母にとっての「憧れ」に由来し、背景に母子家庭の辛さやささやかな喜びが見え隠れするという描き方が秀逸だった。結子が倫子の失踪の原因を追うというミステリ仕立ての展開と、とかくシリアス一辺倒になりがちな題材をコメディ要素を混じえながら描いている点に親しみを覚えた。終盤にかけてやや詰め込み過ぎな感はあったものの、ここまで骨太の作品を編んだ鎌田エリカの手腕に唸った。ただ一点、さぞ切り詰めているだろうと思われるわりに家計の話があまり出てこなかった点は気になった。
戯曲に応えるかたちで生田みゆきの演出も手が込んでいる。当初は明晰な台詞と音響効果の写術性(蝉の鳴き声や蛇口をひねる音など)が目につく印象だったが、次第に軽やかな身体性や時間軸の大胆な飛躍など、演出のトーンが目まぐるしく変転していった。しかも周到に計算されている。先述したウインナーの世代間比較であるとか、テレビアニメ「サザエさん」を観ながら自分たちの家族について考えを巡らす90年代の双子姉妹と、70年代のオト・弥生母子の家族観の差異を、同時に舞台上に上げながら展開させていた場面はうまいと感じた。極めつけは中盤、倫子がインターネットで性暴力被害支援のNPOに出合い、その思想に共感して胸高ぶる様子をショー仕立てで描いた場面は忘れがたい。性暴力被害者が世間のいわれなき偏見に立ち向かう様を、黒づくめの「怪物」とキラキラしたコスチュームの「戦士たち」の対決として戯画化した点に度肝を抜かれた。
作劇・演出が設定した高いハードルに対して俳優陣は大健闘したと言えるだろう。袖のないアトリエ第Q藝術の構造上、一杯飾りのなか2時間出ずっぱりで、時間軸が入れ替わるごとに異なる年齢を演じ分ける必要もある。にもかかわらず場面ごとの切り替えが達者でグイグイ物語の世界に引っ張られたのである。ちいさな空間のため大仰に見える動作や台詞の音量をもう少し抑えたほうがいいようにも感じたが、作品にかける強い意気込みは伝わってきた。特に倫子を演じた西岡未央は、快活を装ってはいるものの徐々に精神のバランスを崩していく様子を、表情豊かに高い身体能力で演じきって圧巻であった。七歳のときに受けた傷を結子にだけ打ち明ける様子や、初体験を終えて高ぶる感情をジャンプしながら全身で表現したくだり、真実が明るみになり感情を洗いざらいぶちまける場面など、さまざまな魅力を見せてくれた。
終盤、オトの故郷である天草の海辺で、ようやく結子は倫子に再会する。倫子は「この場所で/私は歌う/オロイカの歌」(「オロイカ」は天草の方言で「疵物」の意)と謳い上げる。そして倫子が離れオトを亡くした弥生は、花を育てたいと結子に相談する。バラバラになった家族それぞれの再生に向けた取り組みは、映画『ショーシャンクの空に』のラストシーンのような幻の光景なのかもしれない。しかしこの詩情豊かな幕切れが目に焼き付いた。
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2022/04/23 17:10
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