実演鑑賞
満足度★★★
斎藤憐の80年代後半に発表された戯曲。「ムーラン・ルージュ」とはフランス語で「赤い風車」を意味する。19世紀末パリに誕生したキャバレーでフレンチカンカンなど扇情的なショーで大人気となった。今作の「ムーランルージュ」は「ムーラン・ルージュ新宿座」のことで、戦前から戦後まで存在した大衆劇場のこと。
戦後、廃墟と瓦礫の焼跡の中で「ムーランルージュ」は再建される。幕が開けば橋本愛奈さんのレヴュー。流石に歌が上手い。オーナーの青山雅士氏は彼女を口説き続けている。
そこにニューギニアで戦死した筈の彼女の旦那である松浦慎太郎氏が生環。彼は座付きの構成作家であった・・・。長身で端正な顔立ちの松浦慎太郎氏はいずれ映像方面で成功することだろう。
戦時中は内務省や警視庁の検閲で何度も上演不許可を受け、戦後もGHQの検閲で何度も書き直しさせられる台本。レヴュー一座の群像劇でありつつ、敗戦直後の日本人が共有していた気分が見事に醸成されていく。
米兵達にレイプされていたところを救われる石森咲妃さん。
GHQの検閲官である日系人を怪演した如月せいいちろー氏。
必ずねづっちのようななぞかけで事態を比喩するベテラン大道具役佐野眞一氏の名演。
空襲で亡くした赤子の亡霊と共に生きる篠田美沙子さん。
役者陣は皆魅力的で各々見せ場がある。
阿佐田哲也の『麻雀放浪記』なんかを思い出す、捨て鉢でニヒルな魂の抜け殻、アプレゲールの無頼派。生と死、恋と嫉妬、アメリカと日本。アメリカに敗戦し占領された現実から目を逸らし、悪い軍部から解放して貰い救われた善良な民衆の振りをする日本人の変わり身の早さ。大勢に迎合することを美徳とした全体主義。太宰治の懊悩。「愛する者を食べさせてやること以上に価値のあることはない。」との真理。
歌われる楽曲のセンスが良く、1933年のアメリカのヒット曲、『イッツ・オンリー・ア・ペーパームーン』が作品のキーとなる。
「これはただの紙の月
段ボールの海に浮かぶだけ
でも君が信じてくれたなら
それは本物にだってなれる」