グレートフルグレープフルーツ 公演情報 LICHT-ER「グレートフルグレープフルーツ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    観応え十分、お薦め。
    人の心、その闇に宿る寂しさ虚しさといった思いを抒情豊かに描いた物語。深みある脚本、観客の気を逸らせない演出、そして物語を観(魅)せる舞台技術は素晴らしい。
    登場人物は6人だけだが、しっかりキャラクターを立ち上げ、物語の世界へグイグイと引き込んでいく。表層的な観せ方は、少し滑稽で面白いが、そこに紡がれる人の絆や縁といった関わりが物悲しく描かれる。
    (上演時間2時間 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台セットは、正面壁に殴り書きされた多くの貼紙。しかし後々その貼り方に工夫が施されており、照明(プロジェクションマッピング風)によって情景が立体的に浮かび上がる。中央に少し大きな台が横向きに置かれ、所々に貼紙が見える。後景と一体感を持たせた舞台美術はシンプルであるが趣がある。

    この合同会社LICHT―ER企画は未見であった。まず脚本の末原拓馬氏、演出の塩崎こうせい氏、そしてプロデューサー兼照明担当の阿部将之氏という、スタッフの名前を見て観劇を決めた。そして観て良かったと実感!作品は作り手を離れ普遍性(後世)あるものへ、と信じている。

    主人公ヒカリ(福圓美里サン)は、今35歳の「週刊真実」の記者。冒頭はヒカリの出生時のエピソード、8歳の時に父が家出して戻ってこないといった生い立ちの紹介。この編集部は、福岡県で発生した連続バラバラ殺人事件を記事にすることにした。ヒカリは、大手新聞社(エリート)からこの雑誌社に入った通称:クヅ丸(土田卓サン)と一緒に取材をすることになる。次々に発見されるバラバラ遺体は浮浪者ばかり。そして喰いちぎられたような痕があり、地元の人々は妖怪「ししこり」の仕業だと噂する。2人は その巣窟へ…。

    陽の当たる途を歩む者もいれば、闇(陰)しか知らない者もいる。「陽」「闇」は人との関わりの有無として喩え、誰にも知られず 記憶も薄れ忘れてしまう怖さ。身寄りもなく、死んだことさえ知られない浮浪者、その被害者たちを”事件にする“ことによって注目させる異常さ哀しさ 怖さ。ヒカリと父(他複数の役:森尾繁弘サン)のあの世(夢)での邂逅に泣ける。同時に妖怪を生み育てたテルオ(音羽美可子サン)と幼馴染でヤクザ・影彦(阿久津京介サン)のエピソードを若いヒカリ(他複数の役:吉田紗也美サン)の生い立ちと重ね合わせる。

    妖怪が居るという巣窟…見事な照明技術で闇の奥深くに誘われるようだ。照明は祭り提灯や赤い糸(絆)・蜘蛛の糸(絡めとられた柵〈シガラミ〉)といった光景や心象を巧みに表現する。併せて、妖怪の咆哮するような不気味な音響、それら舞台技術を駆使し洞窟内という迷宮を出現させる。

    演技は、福圓さんの酔った悪態、罵声といった醜態、剥き出し演技が実に自然、観入ってしまう。そんな彼女に「ホ」の字になる土田さんの忠犬ぶりが笑いを誘う。借金で自殺した母を想うテルオ・音羽さんの宝塚歌劇団 男役のような凛々しさ。テルオの母を死に追いやった影彦・阿久津さんのヤクザの派手さと苦悩の姿という二面性の演技。森尾さんの複数役は味わい深く、一方、吉田さんは控えめな役柄でしっかり支える。皆さんが熱演であった。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/04/15 16:31

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