実演鑑賞
満足度★★★★★
「新たな舞踊を呼び起こす感覚を得た。」と、プログラム巻頭に記されているが、いつも予想もつかない世界観を提示され興奮し続ける
平原ワールド。
今回はまた俳優の台詞演劇とダンスの
一体化が余りに馴染み絡み合い、しかし領域は分け合っての匠みなシーンに釘付け。課題のコロスの存在が明瞭な蠢きに展開している。
3.12月KAAT初公演から予定の各地公演が出来ず、ようやく再演された待望の舞台。
いつも進化する平原ワールド。
再考され、研ぎ、削ぎ、洗練…益々の進化に興奮冷めやらぬ公演だった。
意味深いテーマ毎の一呼吸で、より鮮明に組立てがなされたような体感。
上下二段となる板の舞台空間に先ずびっくりする。始まる前からの空気感と登場の仕方、また俳優の掛け合いがダンサーの絡みと相まって深みにはまっていく。
台詞の掛け合う演技と集団コロスのダンスの匠に蠢く動作からの二元性。ダンサーのリアルな立体感のある蠢きと発散からの鎮まり。俳優とダンサーのコンタクト噛み合い方の匠な妙に、まさかの自分も同化したかのような錯覚に引き込まれてしまう。
俳優とダンサーの出演者が古典演劇誕生の型を予感する衣装や音、照明の組み合わせ、二枚の板空間の舞台に乗じて、
実に平原ワールドでないと誕生しない出会いの壮大な文化の結合と進化を目の当たりにする。
ダンサーのあまりにリアリズムの削ぎ落とした洗練された動きに圧倒されながら、俳優の台詞に重なる時の調和はコロスの原点か…平原ワールドの止まらない探求心がたくましい。コロスを軸にしながら、表現者個々への尊厳たる希望の一石を投じている。
しかもこの世界観には、演技・舞踊の原点、
神祭りに起因する神聖な空気感をもいざなっていて印象深い。
台詞の言葉はダンス表現の輪郭を得ることができる。感じたワード…
よちよち歩きの時のこと覚えてる?
もう下り坂
荷物捨てて…
死人に口なし
いや生きてる人間に耳がない
寄り道
疲れて歩けない
地下を照らす灯り
終演後夕陽眩しくも興奮覚めず、
ワードでフラッシュバックしながら歩いていたら下北沢の混沌街に辿り着き、
現実に還った…
いつも新鮮な驚きを与えてくれるダンスの世界観をまた一新。
研ぎ澄まされたこのワールドにまた身を投じたいと、心が湧くばかりだ。