民衆の敵 公演情報 ハツビロコウ「民衆の敵」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    観応え十分。お薦め。
    現代に通じる社会派劇であり人間ドラマ。とても古典で他国の話とは思えない。
    或る健康侵害・環境汚染問題を糾弾するだけではなく、不条理な人間模様が重層的に立ち上がってくる。単に行政(権力)批判だけではなく、その行為に対する色々な反動を通して人間性を描く。裕福な生活環境を手に入れ、その恩恵を優先する現代社会...そのために将来のリスクに目を瞑り、自己矛盾していることを薄々感じながらも、今の生活水準・富を手放したくない。市民、いや愚衆は今日より明日が少し幸せであれば満足するのだと…。

    内容の捉え方は、(現在)社会情勢と人間の内なる思い、そして周りの環境・状況によって一律ではないだろう。イプセンが およそ140年も前にこのようなテーマを身近な設定で描き出したことに驚嘆する。同時に、今 この演目を上演するハツビロコウの着眼にも感服。
    (上演時間1時間55分)

    ネタバレBOX

    舞台セットは、2つの木製テーブルを合わせたものと、隅にミニテーブルがあるだけ。全体的に薄暗く物語の重い雰囲気を漂わす。場景によってテーブルを離したり配置を変形する。

    梗概…表層的には、町の財源である鉱泉汚染を巡って、真実を公にしようとする町の専属医で科学者・ストックマン(橋本一郎サン)と、それをもみ消そうとする兄であり町長(井上智之サン)=行政(権力者)との対立。設備の改修費用や休業期間は住民生活を圧迫し、将来的には温泉地としての評判も落ちる。真実を公表すればどうなるのかと迫る町長。経済の悪化や不安定な国(行)政によって社会不安が広がると、大衆は分かり易い世界観を説く勢力に傾斜するかもしれない。しかし、一人ひとりが違った見方で世界を見る大切さ、それによって まともな形で世界が存在していることが解る。だから〈人民の敵〉呼ばわりされても、あくまで戦うストックマンは「正しいのは常に選ばれた少数派だと叫ぶ」。町の新聞社は、「真実」と「正義」という建前で権力批判をするが、実は権力にも盾つけず、双方の間で揺れ動く日和見姿勢。新聞社の存在意義を果たせないことへの痛烈な批判を込める。

    コロナ禍において、種々の制限、不寛容な社会になった側面も否定できない現代日本。大勢(マスコミも含め)を背景にし、その正否は十分に検証したのか、といった今に通じる内容だ。

    「自分なりの正義」を信じて行動し、家族を始め周囲の人々を巻き込んで集会の場へ...その場での発言は一瞬正しいように思われる。集会後...家族の行く末不安時に遺産の話。やはり足元の生活優先という小心で狡猾な面もチラリと垣間見える。この学究肌、正義感だけではない人間臭い側面も描く。やはり社会批判と人間の内面を抉る、二面性を持つ芝居は考えさせる。
    さて、一貫してストックマン家族を擁護する船長・ホルステル(石井俊史サン)の存在が気になる。ほとんど洋上で生活しており、この町(地)との関りが薄いのか。冷徹に物事を見つめる、第三者的な立場の人物を登場させること、それは同時に観客の視点でもある。

    上演台本・演出(松本光生サン)は素晴らしい。また演技は、役者が夫々の役柄をしっかり体現する熱演。キャラクターを立たせる演技...役を突き抜け 本当に迫力、臨場感があり観応えがあった。ラスト...向背の決は観客自身で考えてほしい、とのメッセージを投げかける家族の姿。見事な余韻を残した。
    次回公演を楽しみにしております。

    0

    2022/04/02 01:21

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大