劇團有機座・ウイングス 公演情報 有機事務所 / 劇団有機座「劇團有機座・ウイングス」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     実に現代的な作品。必見! 華5つ☆ 
     板上は簡素な舞台装置である。下手に操縦席を表す椅子。その後方に四角い頭部を付けた台数個。上手にはL字型に幕を垂らした半分透けた布。光が当たるとこの幕の内側には医務室の内部が見える。ホリゾントにもクロスが垂れ下がっており、脚本の一部が投影されたりする。

    ネタバレBOX


     元々はアメリカのラジオ番組の脚本として書かれた原稿がオフブロードウェイで演劇作品として上演され、その脚本を基に有機座の銀漱さんが脚色したのが、今回上演される作品だ。飛行している複葉機の羽の上に立ったり、羽の上を歩いたりすることを旨とする職業があったという。無論この芸当を披露したのは女性であった。然るに今作は、ウィングウォーカーと呼ばれた彼女たちのアクロバティックな活躍を活写した作品ではない。誰でも想像できるだろうが、事故の危険性は非常に高い。そして今作は事故で脳に損傷を負った女性の事故後の様子を描いたものである。将にこの点で今作の現代性が際立つ。有機座は、エンターテインメントを通して高い志を表現する為に随分多くの海外作品にも目を配り、今作もそのようにして選んだ作品の1つである。開演直後に今作をこのように上演するに至った経緯をそれとなく的確で適切な説明で表現してくれるので、すんなり作品に入ってゆける。先に今作が現代的である旨書いたが、それは先進国を筆頭に多くの国々で平均寿命が延びた結果、認知症等、脳の疾患に起因する諸問題が我らの日常生活に大きな影響を齎すに至っていることと無関係ではない。その為に生まれる差別・区別や生活破壊、生きることそのものと社会規範や習慣とのギャップを極めて具体的、社会的、倫理的な総ての要素を含む人間の総合問題として提起しているからである。主人公のスティルソン夫人を演じた翠野 桃さんの演技も素晴らしい。また、事故直後外界とのコミュニケーション齟齬を起こした主人公の模様を脳内のパルスの乱脈な動きを表すかのような映像で象徴的に描いた工夫も評価したい。彼女は事故後、一命を取り留めたものの先に記した如く脳に障害を負ってしまった。然し当時漸く大脳についても科学的研究が格段の進歩を遂げる時代の黎明期に差し掛かっており、医師達によるケアの効果もあり、彼女が左利きであったことが右脳・左脳の機能分担との関係で幸いもして徐々に日常対話の能力等を回復してゆくのだが、この間の彼女自身の内的ストラグルは、当然彼女を取り巻く医療環境に現れた往時の人々の弱者に対する態度を前提として総体を見なければならない。当にこの視座の大切さをこそ今作は訴えていると言わねばならない。実に深く示唆に富んだ作品であり、このように優れた作品を選び、今上演してくれた有機座の見識の高さに賛辞を表したい。

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    2022/03/12 18:57

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