おつかれ山さん 公演情報 ことのはbox「おつかれ山さん」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    悪人は登場せず、全員が「普通の人」であるが、それぞれの立場や気持で発言し行動する。しかも相手の事は気づかっているつもり。
    独善の思惑が1人の人間ー山口先生を追い詰めていく。表層的には滑稽であるが、真は皮肉を込めた驚怖が潜む秀作。
    (上演時間1時間30分) 【Team葉】

    ネタバレBOX

    舞台美術は、上手は高校の職員室(時間割や年間行事、「革新政党」ポスターの掲示)。下手は学校の応接室であり山口先生宅である。しっかり作り込んだセットはラストシーンで、その意図を知ることになる。この普通の光景、一瞬にして破綻・狂気の光景へ追い込む演出は見事! 場面に応じた着替えは、おつかれ山さん、でもあった。

    高校教師の山口先生はクラス担任、柔道部と演劇部のかけもち顧問、毎日が忙しい。そして山口先生の生き甲斐でもある劇団も率いている。しかし、なかなかその活動に集中出来ず、メンバーの心も離れていきがち。家庭では妻との会話も不足ぎみ。家に帰っても学校のことが気にかかる。そんな山口先生を軸とした平凡な現代人の苦悩ぶりが立ち上がってくる。

    現代日本の教育現場は年々様々な問題に追(負)われ、労働条件と環境は厳しく苦しいものになっている。少子化による生徒数の減少、それに伴って教員数も減らされる。部活動顧問の仕事が2つ3つ掛け持ちは珍しくない。校務分掌も多重化。教師は生徒たちとの会話や、悩み事にのってやる時間が取れない。保護者は子供の非行等を教員の責任にするモンスターペアレント。苦情を申し立てる保護者への対応は重いストレスとなって教員の心に打撃を与える。そういう現場に生きる教員が書いた作品、それだけにリアルだ。

    公演では、それらの事を笑いの裏に描いている。
    教員現場の労働条件と労働組合活動(岡島)。一方、教育活動という単純に時間管理で終わらせられない特殊性。生徒たちの問題に寄り添おうとする真面目で良心的な山口先生は孤立化していく。山積する問題、深刻化するばかりの問題を、役者達は実にコミカルに演じていた(佐々木・坂本・大山)。山口先生に怪我を伝えにくる柔道部員、相談事があるが、なかなか相手にしてもらえない演劇部員(部長)。若くして教務副主任になり激務に苦しみ強迫神経症ぎみになった若い女性教員(福田)。教頭先生は板挟みで右往左往か?モンスターペアレントー(城之内)が職員室に乗り込んできた対応場面などは、あるある脅し文句(言葉)の緊張。

    教師も家庭人だが、妻や子供と話したり遊んだりする時間がない。学校での諸々の問題や悩み事が付きまとう。家が教員集合住宅という設定が妙。そして妻(知子)の衝撃的な告白、その身近さに納得してしまう。しかし相手が病弱で授業を代替してもらっていた人物だけに、理不尽であり滑稽でもある。教師も所詮は、人間なのだ。ラストシーンは、山口先生の心の崩壊を表現しており、コミカルから一転驚怖へ。実に落差ある人物表現であるが、周りの(集合)人物達によって造形されたといっても過言ではないだろう。

    さて、人はどう考え、どう動くのか、教育現場だけではなく問われている。コロナ禍ー疲弊・閉塞した状況であっても、また世の中がどんなに不条理な矛盾に覆いつくされても、人は生きていく。この公演…愛しく滑稽な人間模様を描く作品ではあるが、今の状況に投げかけるものは決して軽くない、と思う。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/02/01 13:00

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