ガラテアの審判 公演情報 feblaboプロデュース「ガラテアの審判」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    コロナのお陰にて(?)観劇のチャンスが。
    幾分懸念は鮨詰めの客席だった所、実に余裕たっぷりの客席で贅沢に観劇。
    feblaboらしい演目である。かつ、役柄を担うには若い俳優ら、というのもfeblaboであった。
    偉そうな事を言えば(毎度の事だが)、若い彼らの溌剌さは目くらましでもあり、リアルを突き詰めると綻びが見え隠れするストーリーである所を若さが補っていた、と言えるか。
    SFはその設定(極力矛盾が見えない事)が生命線になると考えているが、本作は叙述の形の取り方がうまい。時代はAI技術がシンギュラリティ(進歩の末に人間の知能を超える時点)を愈々迎えたらしい時代と設定、一見人間との差異が認められないAIロボット・ジャックが起こしたある過失事故を「裁く」法廷劇となっている。裁判を進めて行くためのロールである弁護士、検事、判事がそれぞれ、ジャックの存在に対するスタンスを異にするため初期より議論が始まっている。哲学論争に先行を許し、後から事実検証が観客の目に小出しに開陳される手法により、SFの弱点である設定の綻びは「新事実」と「論争」でうまくかわされていく。だがやはり、設定の如何によって受け止めが変わる。真面目に受け止めたい自分としては、もし架空の世界を楽しむ事が主眼であるならそのように割り切るための「リアルの程度」を、出来れば早い時点で示されたし、という感じであった。

    裁判の進行というストーリーと並行してこのドラマには一つのテーマが据えられている。それが人間を人間たらしめているもの(定義)を超えた「新たな人間」(AI)を、人間の仲間として迎え入れざるを得ない時、我々はどうするか、という問いだ。
    しかしこの問いが成立するには、幾つもの前提を敷く必要がある。果してこの戯曲が発しているかに見える問いは、真剣な問いなのか・・。少し厳しいなと正直思いながらの観劇であったわけである。

    ただ、場面的には「劇的」要素が鋭く立っている箇所があり、うまくすれば深い哲学的問いに繋がる印象的な場面になったと思える。銃撃によって身体を失ったジャックが奇跡的に頭脳チップと小さな箱状の「体」の接続が成功した事で外界と会話ができるようになったその状態は視覚的なインパクトが強烈だ。着想に秀でた才があり、このテーマにこだわってくれるのなら精度を増した新作を期待したい。

    ネタバレBOX

    無粋と言われようが・・不足に感じた内容を書けばこういう事だ。
    人間の自意識がどこから生まれたか、という問いも未知の領域だが、「生命」の定義である再生産力(自己模写力?)を有する身体=細胞体が、何十億年もの前にその始原を持つことは何かを示唆していそうだ。つまり生命維持と再生産のためのボディがその動きを多様化させていくに従って知能程度が複雑化・高度化して来たのが生命の歴史だ。生命体にとって「私」とは身体そのもの、という前提が私の中にある。そう考えるとジャックが人間の体を手に入れるには、死んだ人間の体を借りたのか(あるいはクローン?)、といった設定によって見方が変わってくるがまあそこは一応人間の肉体を持ったと理解しよう(そんな時代は来ないと思うし来たとしてもAIのシンギュラリティより遥か遠い未来だと思う)。
    神経系統や感覚機能全てを備えた人間の身体に接続された頭脳チップが、どのように「自己」を形成するか、であるが、身体自身が絶えず運動し波動を脳に伝えている、恐らくそこから「自分自身」を認識し人間的な自己意識を持つのだろうと想像する。芝居の中でチップだけになったジャックが、箱に閉じ込められた人間のようだったのは少々がっかりであった。身体の死を経験した頭脳が、以前と同じ「人格」を持ち得るのか・・。「人間とは何か」を問うドラマであるが、AIを人格として尊重し、新たな時代の扉を開く、という感動的な結論が既にあっての物語では、「人間」を定義づけるものへの接近は難しかったというのが実感だ。
    裁判の終局、検事は極刑(チップをバラバラにする)を求刑(ジャックは飼い主から虐待を受けていたが、主人が恨みを持つ隣家の子である少女を前にしてある衝動に動かされた、と自供している)。一方弁護人は、意思能力に疑いありとして無罪を主張(少女を殺した直前数日間、会話が途切れる症状が出、ハッキングによる外部コントロール状態があった可能性が疑われた)。そして判決日。判事が言い渡した判決は「被告人を15年間の懲役に処す」であった。つまり判事は被告を「人間並み」に遇したわけである。
    ジャックが元々持っていた身体が老いる有機体だったのか、何百年も生きる代物だったかも説明されていないが、命が有限であるか否かも、「人間」を考える上では抜かせない。

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    2022/01/31 14:58

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