アルトゥロ・ウイの興隆【1月13日~14日公演中止】 公演情報 KAAT神奈川芸術劇場「アルトゥロ・ウイの興隆【1月13日~14日公演中止】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    主に1930年代、ドイツが隣国オーストリアを併合(1938年)するまでの“ナチス前史”を
    シカゴにいる架空のギャング団の“発展史”になぞらえて描いていく作品。

    ブレヒトといえば「異化効果」で有名だけど、この作品は成立した時期が時期(ドイツから
    亡命していた1941年)なだけに、メッセージ色がかなり強めなエモい作品になっている気が
    しました(セリフも煽っていくスタイルに近い)。

    見てて思ったのはトランプ当選もだけど、「トランプが出たから社会が悪くなった」という
    より、「社会が既に悪くなっていたからトランプが出てきた」という、

    原因と結果が一般的に感じられているものとは得てして反対なのであり、そこを読み違って
    しまうと、「第1のウイ」を排除したことにすっかり満足して、迫ってきている「第2のウイ」を
    防ぐことはできない、ということ。

    ネタバレBOX

    もともとウイのギャング団は、14年たってもメンバー30人ほどの「少なくはないけど、とりたてて
    注目すべきほどでもない」存在だった。

    しかし、社会が混乱し、それまでの秩序が全く成立せず、みんなが私利私欲にかられて画策するように
    なると、そこにつけこんでたちまちコミュニティを侵食してしまう。風邪の菌と一緒で、人体が健康な
    場合には全く何もできないけど、一度弱ればどんどん勢力を拡大していく。

    だから、「独裁者の登場」というのは、そのまま社会のたちいかなさの指標になっているのだな、と
    感じた(そういう意味では、アメリカはもうかなり「末期状態」になってる感ある)。これは民主
    主義がいいとか悪いとかそういう前提の話ではないですね。

    街のただの輩でしかなかったウイが、野菜のトラストの用心棒、元締めに始まって、議会や司法を
    乗っ取ってのし上がっていくさまは、なまじテンポよく歯切れよく進行していくだけに、痛快さすら
    覚えるほどなのだけど、

    隣町のトラスト合併に邪魔だからというので、数十年来の相棒ローマをほぼためらいなく粛清する
    あたり(これは1934年の「長いナイフの夜」におけるエルンスト・レーム暗殺をなぞっている)
    から、ウイが得体のしれない化け物に見えてくる。ローマ粛清前とは違って、誰にもはかりごとの
    裏を明かさなくなったため、言っていることが本心からなのか、それとも悪事の一環として吐かれた
    与太なのか全然分からなくなってくる。

    いわゆる「独裁者」とされる人物の本質ってだいたいこんなもんなんだと思う。粛清に次ぐ粛清で
    本音を話せる人間が周囲から消え去り、イエスマンが持ち上げる通りの人間を演じていくという。

    草なぎ剛、煮ても焼いても食えない、後半にかけてどんどん不気味さが増していくウイの役、ホントに
    当たり役でした。ジェームズ・ブラウン使いといい、いい感じにゴージャスで、チャラくて、現実と
    リンクし過ぎで怖い舞台でした。

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    2022/01/19 08:06

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