赤目 公演情報 明後日の方向「赤目」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    第一幕70分休憩10分第二幕80分。
    白土三平の紙芝居時代から貸本劇画時代への変遷期を、劇中劇としてマニアックな初期作品『赤目』と共に綴る。白土三平の会話の内容がかつての左翼文学っぽく、自省的でちょっと難解。何かを言おうとすると「いや違う。本当は僕はそう思ってはいない。」的に自らすぐに打ち消しにかかる。独り言のように繰り返される自問自答。1967年に書かれた斎藤憐(れん)のこの作品を白土三平は観たのだろうか?
    1958年(昭和33年)、紙芝居画家の白土三平(直江里美さん)は金野(こんの)新一(野村亮太氏)の下で共同生活をしながら働く。しかし、テレビの普及に伴い紙芝居の人気はどんどん落ちていく一方。仲間の瀬川拓男(渡邊りょう氏)は指人形劇団太郎座を率いて全国を巡業している。(実際の時代とは3年程ずれている)。後に妻となる李春子(百花亜希さん)がそこに移り住んでくる。紙芝居屋に人生を賭けると言っていた満州帰りの吉やん(國松卓氏)はある朝書き置きをして去って行く。貸本漫画家の誘いを受けつつも紙芝居による表現に拘る白土三平。上野国(こうずけのくに)〈群馬県〉の義民・磔茂左衛門(はりつけもざえもん)を描いていく。将軍に農民の窮状を直訴した罪で、妻子もろとも川原で磔刑に処せられた郷土の英雄。そのうち、白土三平は自分が描きたいものがどうも違うことに気付き出す。「物事の結果がどうであるかはどうでもいいんだ。大事なのはその過程で、具体的に何をしたのか?なんだ。」

    『ドップラー』の主演で印象を残した國松卓氏はいつも汗だくで目が座っている。何か痩せたような。百花亜希さんは観る度に役柄の纏うイメージが違うので、一体どんな女優なのか未だに掴めない。今作のような陰々滅々たる物語には彼女の明るさが必須。キーボードコンダクターの後藤浩明氏とコントラバス奏者の藤田奏(すすむ)氏の生演奏が最高だった。
    新聞紙を上手に使った美術、段ボールの紙芝居、「金は無いがアイディアは有る」気概。

    ネタバレBOX

    白土三平の『赤目』が劇中劇として挿入。領主信平の圧政に耐えかねた百姓・松造(菅野貴夫氏)達は蹶起し、一揆を起こすも種子島(火縄銃)の前に悉く敗れる。身重の妻を惨殺された怨みを抱いたまま、何とか生き延びる松造。忍者に拾われ数十年修行を積むも、「才能なし」と大怪我をしたまま打ち捨てられる。山猫の大群に襲われたところを猟師に助けられるも、片目と片脚を失う。自分を救ったものが因縁の種子島であった事に項垂れる。猟師の言葉、「餌である“赤目”がいないせいで山猫が人を襲う」にピンと来る松造。「赤目」とは兎のことである。
    郷里の村に帰り、廃寺に棲み着く松造はいつしか「上人」と呼ばれるようになる。松造は「赤目教」と云う兎を崇める新興宗教を広めていく。段々と「赤目教」は広まり、村人が兎を殺さなくなった為、兎は増え続ける。兎を餌とする山猫も増え続けていくも、今度は兎の食べる野草が無くなる。無理して何でも食べようとしたせいで、疫病が発生し兎は大量死。松造は人の死体を山猫に食わせ、味を覚えさせる。飢えた山猫は無差別に人間を襲うようになる。領主信平は百姓達に種子島を渡し、山猫駆除を命ず。それを手にした百姓達はくるりと踵を返すと、種子島を城に向ける。

    3年後、大人気の劇画家として成功を収めた白土三平に、瀬川拓男は『赤目』のラストを褒め称える。「民衆が主人公となって初めて自らの意思で銃を権力に向けたんだ。このラストは君にしか描けない。」
    それを否定する白土三平。「本当のラストシーンなど誰にも描けない。」、筆を手に狂ったように加筆していく。一揆が成功して勝利の歓喜に沸く百姓達。復讐を遂げた松造は「まだ何も終わってはいない!今から始まるのだ!」と檄を飛ばす。ポカンとする群衆。狂ったように皆に斬り掛かる松造に「上人様が狂った!」と逃げ惑う人々。「まだだ!まだだ!まだだ!まだだ!」と暴れ続ける松造と「松造!狂え!狂うんだ!」と描き続ける白土三平で終幕。

    原作の『赤目』のラストは、領主信平の首をぶら下げた松造が気がふれて何処かに歩き去って行くもの。

    難解な作品だが、ラストの昂揚は素晴らしい。

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    2022/01/01 03:46

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