実演鑑賞
満足度★★★
#三村聡 #大久保美智子
#中川佐織 #星善之
#高島領也 #喜多京香
#塚瀬香名子 #鶴澤津賀寿
#竹本京之助(敬称略)
古典を上演する時、「丁寧に忠実に上演する」ことと「それでは新鮮さを欠いてつまらない」という考えに分かれる傾向にあることは理解している。最近では後者が多い気がする。温故知新の精神は、まず丁寧に忠実に作ってみて、そこからのステップとして様々なトライがあればイイと常々思う。
今作は配役にひと工夫されている。目当ての塚瀬香名子さんの姿を存分に味わえてこの上なく嬉しい。以前に学生と作る演劇公演で彼女が『ハムレット』に出演されたのを拝見しているが、それとは全く違う楽しみを味わうことができた。いろんなカンパニーで上演された本作を観てきたけれど、王子が愛する女性に向ける叱責、罵詈雑言、尼寺へ行けと繰り返す視線の先に、こんなにも強く母への憎悪と、肉欲や煩悩への嫌悪が感じられた公演は無かった気がする。理解していることだったはずなのに、ハッとさせられた。さらに、悪や不正を憎む正義の印象が強かった王子に、他者(フォーティンブラス)と自分を比較して嫉妬し、己を嘆く人間らしさや弱さを立ち上げたのも塚瀬さんの功績と言えるだろう。
衣装への試みも興味深い。西洋の貴族と和装が混在する意図についてずっと考えを巡らせている。
王殺害の回想にアレを運び込んで活用するのもユニークで滑稽さが生まれた。カブトムシのヘラクレスも面白い。
しかし、野鳥の会の如く王子が双眼鏡で覗くのが母のベッドという演出ならば、悪趣味であり本作品の王子像にそぐわないと感じるのはワタシだけだろうか。ましてや母と叔父の情事をあんなに露骨に作る必要性があったのかも疑問である。かつてこの作品でそんな演出を観たことはなく、いい大人が困惑した。
最も違和感を感じたのは三味線と浄瑠璃。そこに人形浄瑠璃に似せた表現まで被せて長々と……。残念ながら唄われた大切な説明台詞は、その抑揚が邪魔して耳に入らなかったが、それは唄い手のせいではない。
演出の冒険は、まぁそういうものだから、そうなのだろう。むしろ脚本に誰がどんな手を加えたのかは演出以上に興味をそそられた。ボローニアスが異国へ旅立つ息子に話す三つの教えには手を加えていないのだろうか。分かりやすくて感心したが、本に変更が無いのなら演出と俳優の手柄だ。来春、家を出る双子の娘たちに何て言えばいいだろう……そんなことを今から考えている。