『水』/『青いポスト』 公演情報 アマヤドリ「『水』/『青いポスト』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    『水』

    開幕すると所謂“演劇”がスタートして、集団で台詞を合唱斉唱重唱輪唱していく自分の嫌いなタイプの語り口。「これが2時間20分続くのか」と気が滅入るものの、いざ物語の中に投げ込まれると話自体が面白くて世界に没入出来る。ただ暖房が効き過ぎで、周囲は結構居眠りしていた。

    物語の原型はボリス・ヴィアンの『日々の泡』(邦題『うたかたの日々』)。妙な現実感を組み込んだ大人の為の童話(寓話?)のテイストは『劇団おぼんろ』の感覚にも似て。

    初めにこの話がハッピーエンドであることが観客に明かされ、ハッピーエンドのちょっと前の様子も見せてくれる。それがどう見てもハッピーエンドには成り得そうにない光景でこれが蒔いた一粒目の種。ヒバリのバニラの無惨な死の光景も前もって語られる。これが二粒目の種。

    細かい台詞や動きも完璧に計算され尽くしていて、相当な稽古量が透けて見える。演出家の完璧に構築された設計図があり、役者皆が一人ひとり自然に輝くようにデザインされている。
    ヒロイン役一之瀬花音(かのん)さんは吉高由里子にちょっと似ているような可愛らしさ。ヒロインの旦那役・阪本健大(けんた)氏は岡田圭右似でえらく格好良く、強い存在感で目を離せない。ヒロインの母親役の右手愛美(うてまなみ)さんは韓国映画の女優みたいな派手な美人。夏に『歴史法廷の中に生きる我々のための小噺集』で観た、医者役の木村聡太氏はスタイルの良さから記憶に残る。ヒバリ役冨永さくらさんはバレリーナのようにステージ中を軽やかに跳ね回り、その余韻が木霊し影が残像となって消えていく。

    序盤に蒔かれた二粒の種が約束通り芽吹くとき、無力さに打ちのめされるだけのこの物語に果たして光は射すのだろうか?

    ネタバレBOX

    話は難病モノで、一之瀬花音さんが結婚式の夜、奇病に冒されてしまう。このまま病気が進行したら肉体が湖になってしまうので、それを抑える為「海老の尻尾」を摂り、水は一日小さじ2杯まで。旦那の阪本健大氏は「ゲロ掃き屋」で、電線に籠を引っ掛けてロープウェイ代わりに移動し、深夜のゲロを掃除し続けている。二人の出会いの切っ掛けを作った斎藤拓海氏はDH(公務員である国家公認犯罪者)。彼の恋人の徳倉マドカさんはお笑いコンビ・チタンカーメンズの大ファン。そのチタンカーメンズがネタで提案したDHシステム(国が管理出来る犯罪者を養成し、国の管理の下、マッチポンプとしての犯罪を犯すこと)。これが評価採用され、チタンカーメンズの二人は大臣の座を与えられている。
    斎藤は恋人の気持ちをチタンカーメンズから逸らす為、暗殺を企てる。友人の阪本が代わりにそれを実行に移すが、殺さずにコンビの一人をホトトギスに変えて拐う。逃亡する阪本は逃げ延びた先のマンションで、「叢雲(むらくも)屋」になる。「月に叢雲、花に風」(良いものに限って必ず邪魔が入る)から意味を採り、人が死ぬ前日に家族にそれを伝えに行く仕事。その職業故、妻が明日死ぬことを知った。

    一之瀬花音さんは子供の頃、母親とボートに乗っていて誤って湖の中に落ちてしまう。何処までも沈んでいき、遠くなっていく水面。母親の右手愛美さんは娘を助ける行動が何故かどうしても取れない。空を見上げると、娘が見ているであろう光景に自らを重ねてしまう。遠く空の青さを眺め、沈んでいく自分。近くの青年が飛び込んで助けてくれたのだが、母と娘は決定的な心の傷を負う。母は病み、家に閉じ籠もり、食事も摂らなくなる。この件の母娘の対話シーンが絶品で右手愛美さんの見せ場。この作品の一つの核である。

    そしてラスト、妻は死んで湖になった。旦那はその湖にマンションから飛び込む。彼女との二人だけの秘密の合図、水面に咲く蓮の花になった手を繋ぎ、何処までも沈んでいく。何処までも水に溶けていく。何処までもそして何処までも。

    「···とさ。」と話を締め括る松尾理代さん。
    最後に流れるのは大槻ケンヂの『オンリー・ユー』(田口トモロヲ率いるパンクバンド『ばちかぶり』の代表曲のカバー)。ちょっと意外な選曲。

    会場で配布された小角(こかど)まやさんのイラスト人物相関図が秀逸。他の劇団も真似て欲しい。

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    2021/12/17 23:57

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