鴎外の怪談【12/16、12/19、12/25公演中止(12/19は1/30に延期公演決定)】 公演情報 ニ兎社「鴎外の怪談【12/16、12/19、12/25公演中止(12/19は1/30に延期公演決定)】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    永井愛戯曲、しかも初演で演劇賞を獲った作品を今更評するのも何であるが、二兎社の面白いのは再演してもキャストが丸ごと変わる所で、「ザ・空気2」に続いての松尾貴史の起用それも主役という事で楽しみではあった(私としては初演を見逃したリベンジ)。鴎外作品に馴染みがなく、読みかけても興味が続かず挫折し結局一つも読了していない(教科書に載った短編以外)人間でも、歴史の中に生きた鴎外を描き出した本作は興味深く観れた。
    ただしもう一つの個人的関心は、日本は急速に変わり(劣化し)つつあり、コロナ期を挟んで益々その劣性が露見したここ数年の変化が初演舞台での条件(観客側の)を損ない、初演時と異なる見え方をしているのではないか、といった事だ。初演を見ておらぬから判りはしないのだが、思いは巡る。永井愛特有のユーモアは大逆事件における鴎外の保身を暴きながらも「歴史」という大きな視点の中に収め、鴎外自身の苦悩は苦悩として、しかし多くの人に愛された存在(個人、作品とも)だったとした。
    だがこの劇の集約のされ方は「負の歴史を経て多少なりともまともな時代になった」という確信が残る限りで、許される。最後ににっこりとは、そういう事だ。だがもうそういう時代ではなくなったのではないか。
    まともでない状態を否定せず、むしろそれを牽引した政権に続投を委ね、劣化に居直る社会では、鴎外の「保身」の苦悩など取るに足らないものに思える。彼は十分苦悩したし闘おうとした、と幾ら描こうとも美談にならぬ(元より美談ではないという評価もあろうが)。また彼の中にあったと作者が描く自責の念は、労うべき事として描くことはできず、正に一人間の無力の証として描くしかない。なぜなら現在彼と同様に、無力さと保身とにより、手をこまねいて何もできないでいる(あるいはまだ大した事は起きていないと目を瞑る)我々をそこに見るからだ。
    悪夢の時代を「過ぎ去った過去」として、その中で苦悩した一人の人間をその功績をたたえるニュアンスで描写することは、もう無理である(作者もそのような安易な描写で終わらせよう等は考えていまいが)。

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    2021/12/05 01:40

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