実演鑑賞
満足度★★★★
北海道の漁村の核廃棄物廃棄場受け入れの可否をめぐる政治劇だ。
いずれ、国としては必要なものだから調査だけは受け入れて交付金を受け取ろうという町長(森下庸之)指導の受け入れ派と、放射性物質反対の反対派(星野卓誠)が対立して、小さな二千八百人の町が分断する。現実にある話だから、描写は一方的、教条的ではないが、やはりドラマとしては浅い。ことに村出身の記者(岩井七世)が出てくると、その設定も甘く、キャンペーン風になってしまう。
簡単に言えば、長い時間に耐える正義・正論か、目先の金か、という議論になるが、それは、原子力のような科学に基づくものでなくとも、歴史の中では幾つも起きてきた。どこでも見られたことでは廃藩置県にはじまり、鉄道駅の設置。教育機関の設立。などの是非で全国的に見られた地域内対立で、その時に起きた議論とあまり進んでいない。どちらの側も、それぞれを正当化する大きな思想というか、モラルが見つかっていないので、どうしても現実の生活レベルで落としどころを見つけることになる。どちらの側も根本には過疎地の貧窮化があるのだが、促進派は将来の繁栄期待、反対派は技術進歩による無効化で、どちらも、実はどうなるかわからないところで戦っている。これも昔とあまり変わっていない。時間に対する確固たる信念に乏しく、また社会に対する構想力が浅い国柄が反映する。ドラマの中の議論も上滑りするし、登場人物の、それぞれの事情も類型的になるし、演技も引きずられてしまう。
作者もそのあたりはよくわかっているようだから、新鮮な視角で見せてほしいものだ。
「背水の孤島」のような素材はそれほどあるわけではないが、観客はあの作品の衝撃を忘れていない。