月の記憶 公演情報 下北澤姉妹社 「月の記憶」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「追憶」と「再生」をしっとりと謳い上げた佳作。
    コロナ禍という事情があるが、今ではその状況でさえ日常のこと。事件や刺激的な出来事が起こるわけでもなく、淡々とした生活が語られるだけだが、それでも観入らせる 力 のある公演。
    夏、人工湖の近くで食堂を営んでいた母が新型コロナウィルス感染によって亡くなる。食堂を手伝っていた長女とその娘は濃厚接触者となり、隔離期間が終わって ようやく葬儀を行う。そこに2人の妹や近所の人が集まり…。
    いつかコロナ禍を捉えた公演があると思っていたが、こんなに早く身近な日常の中に描かれようとは。コロナ感染死を通してみる不寛容で疑心に満ちた世間(社会)、そんな中で暮らす市井の人(個人)の悲しみ、嘆きが深く語られる。コロナ禍によって既にあった問題、すなわち労働問題や経済格差(貧困)などが明らかになった。公演に関係するのが非正規雇用の人たちが職を失ったり派遣切りにあったこと。社会的弱者に対する政治(社会)の歪が露呈したのだ。また物語では、テレワークなど在宅勤務形態など労働環境の変化によって夫婦関係にも影響が出たという。何となく「下北澤姉妹社」という団体名から女性に係る問題を浮き彫りにしたようだ。
    現在の悲観(状況)を見据え、過去の悲しい思い出、それら全部をひっくるめての灯篭流し。その演出は、灯篭と心の揺れを重ねるような印象付けで見事。ラストのパフォーマンスは日常の暮らしが戻るような希望も…。
    (上演時間1時間45分)

    ネタバレBOX

    舞台美術はシンプルで、上手に木製ブラインド、食堂という設定からテーブルと椅子がいくつかある。上演前は休業中ということで、片隅に寄せられテーブルの上に椅子。冒頭、暗がりの中、役者が流木のようなものを両手に持ち、色々に揺らしながらのパフォーマンス。上演前にピアノと水が流れるような音響ー静寂さを感じさせる。人工湖の湖水の流れを連想させるが、同時に葬儀に集まった人々の追憶、その揺れる心をも表現しているようだ。

    物語は先に記したように母・時子が亡くなり、焼骨を終えたところから始まる。食堂は母と長女・田中雅美(明樹由佳サン)とその娘・由美(桑田佳澄サンが手伝っていた。葬儀のために二女・久美(松岡洋子サン)、三女・真理(本田真弓サン)が帰ってきて、それぞれの近況や街の様子を回想する。それぞれ抱えた悩みや問題事を打ち明け、そこにコロナ禍の影を落とす。食堂が感染源という悪評が流れ、無言電話が掛り遺族を不安・不快にさせ、今後の営業に差し障りが…。由美はパチンコ店でバイトをしていたが、自治体から休業要請で収入が減少。久美は、夫が自宅待機・勤務で気まずい雰囲気になり家庭内暴力を振るわれ出す。真理はホテルの契約社員であったが、旅行業界の不況で契約解除される。という身近で見聞きする事柄を点描する。何より葬儀が特殊で、遺体の消毒等に手間と費用が嵩む事実と遺族の戸惑いがリアル。

    同時に久しぶりに帰ってきた久美が、街の変貌ぶりに驚く。シャッター商店街、コンビニの弁当が早々と売り切れる、ちょっとマスクを外しただけで他の客から苦情を言われるという閉塞感をまじまじと話す。また葬儀に来た近所の人の亡くなった人々の思い出話も尽きない。他愛のない昔話であるが、亡くなった人と今を生きている自分たちの時間繋がりを感じさせるには十分な語り。静かな時間の流れの中に激情が渦巻くような雰囲気が会場内を支配する。それが観(魅)せる 力 かもしれない。ラストシーン、自治会の灯篭流し中止という決定を無視し、「時子」「良一」「光一」と書かれた灯篭が闇の中で揺れ流れる光景は実に印象的で余韻を残す。

    3姉妹の流木内でのパフォーマンス・・・表現したかったのは嘆き・悲しみ・怒り・そして祈りであろうか。いずれにしても心象風景は少し唐突といった感じがする。由美は父親を知らないが、何となく貸ボート屋の工藤正(内谷正文サン)の弟であることに勘付くが、そこは触れない妙。
    卑小だが、お盆という時季に久美のレザー(ロング)衣装に違和感。真理が毎年帰って来ていたのは、高校時代の恋人のためであり、その弟である佐野順一(小林大輔サン)から兄のことは忘れてほしいと。が、ホテルの同僚(契約)社員と関係し妊娠していることの違和感。
    次回公演を楽しみにしております。

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    2021/11/25 12:18

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