ニュルンベルクのマイスタージンガー【8月4日、8月7日公演中止】 公演情報 東京文化会館 / 新国立劇場「ニュルンベルクのマイスタージンガー【8月4日、8月7日公演中止】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    前奏曲は有名だが、全曲ははじめてみた。素晴らしかった。第一幕、第三幕はワーグナーの芸術論になっている。芸術の判定を一部の職人から民衆に解放せよ、韻律や形式にしばられた古い芸術の枠を革新せよ。一幕でマイスターの指導者であるザックスはそういいつつ、三幕ではマイスターに認めてもらうことも重要なのだといって、騎士ヴァルターに、形式に(ある程度)寄せた詩作を手伝う。芸術における伝統と革新、変化と持続の両面の尊重がある。

    音楽としても大変聴き応えがあった。前奏曲にあるモチーフが一幕のマイスター会議では散りばめられていて、耳に馴染む。2幕はザックスとエーファの抑制されたロマン的音楽は見事。ちなみに3幕でザックスは「トリスタンとイゾルデの悲劇を知っているから、マルク王の幸せを望まないんだよ」という。自作への言及で、ほほえましい。トリスタン的なうねりある音楽や、あちらでは最後の最後に響いた調和の和音が、こちらではヴァルターの「優勝の歌」の導入に際立って鳴るのも、うっとりさせられる。

    2幕はほかにエーファとヴァルターのかけおち、ベックメッサーのコミカルな(にせエーファの窓辺での)ロマンス曲、ザックスのハンマーによる妨害(快調なリズムはジークフリートの鍛冶場面を少し思わせる)等、聞きどころが多い。エーファがザックスをしたいつつ、ヴァルターを選ぶ、自立した女性として現れるのも、現代の女性客には共感的だ。知り合いの女性は「1幕より2幕がずっとおもしろかった」といっていた。

    そして3幕、「春だけでなく、辛く苦しい秋や冬にも春を歌うのがマイスター」など、セリフもいいものがある。ザックスの歌う「妄念」と血みどろの争いを批判する歌も素晴らしい。歌くらべの開始を告げる豪華絢爛音楽は、前奏曲を再現するようで、これぞワーグナーという圧倒的高揚を作り出す。すばらしい。
    2幕ラストの喧嘩シーン、3幕の民衆のまつりのシーンなど、民衆性も高い群衆シーンが素晴らしい(指輪4部作などにはないもの)。これらはワーグナー自身が見た喧嘩や、祭りから着想しているそうだ。現実から学んだ部分と言える。

    男性歌手のきかせどころの多い作品だが、いずれも素晴らしかった。やはり主役というべきザックスのバリトンはピカ一だった。休憩30分2回を含み、全6時間。95分ー70分ー2時間10分という超長丁場だが、全く飽きなかった。大傑作の見事な舞台である。

    ネタバレBOX

    ラストにザックスが、ドイツ芸術を保持してきた「マイスターを敬え」と、外国のガラクタに対してドイツ讃歌を歌う。「妄念」の歌を聞いたときは、反戦思想に見えたが、ここにきてナショナリズム(国粋主義)が前面に出る。ナチスが利用したのもうなずける。(ベックメッサーの扱いが可哀想と思っていたら、やはり以前から指摘があるそうで、ワーグナーの反ユダヤ主義が反映しているらしい)。
    今回の演出は、最後の最後に、エーファにマイスターの肖像画を破り捨てさせ、ヴァルターと去っていかせる。ドイツ芸術讃歌をひっくり返す。あっと驚きの幕切れだった。

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    2021/11/22 10:16

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